15.マル秘日記

 正直に言おう。

 彼がクローゼットの上の方に置いてある出張用の鞄の中にエロ本を三冊ほど隠しているのと同様に、あたしも彼に隠し事をしている。といっても、後ろめたいことではないのだけれど、彼に知られたくないくらいには恥ずかしいことなのだ。

 結論から言うと、あたしは日記を隠している。彼が居る前で堂々と書いているのは日常用。誰に見られても平気な、今日の出来事や、その時に思ったことを書いている日記だ。しかし私が隠しているのはそれではなく、彼が仕事の時にこっそり書いているマル秘日記の方。

 このノートには、彼の愛しいところがぎっしり詰まっている。

 高いところの物をサラッと取ってくれたり、ペットボトルのキャップを開けて渡してくれたり、さり気なく自転車から守ってくれたり。彼はそういう優しい人間なのだ。かと思えば、訳の分からないミスをしてしまう可愛らしさもある。

 全てをひっくるめて、あたしは彼のことが大好きで、家族になった今も恋人だった頃と同じくらい、寧ろそれ以上に彼を愛しているのだ。

「……そ、それはだめ」

「なんで? いつもの日記じゃないの?」

「うん、そうなんだけど、だめ」

 彼の手の中にある『十五』と書かれたノート。つまりは十五冊目のマル秘ノートが、今、何故か彼の手の中にある。ペラペラと捲っていた所を制止したから、まだ読まれてはいないらしい。けれど、ここで折れてしまったら、こんなに恥ずかしいノートを書いていることがバレてしまう。

 もう一度「返して」と言うと、彼は「んー、まぁいいけど」となんだか納得のいっていない様子で。

「そんなに隠すってことは、俺への愛とか書いてくれてんのかなって期待したのに」

「えっ、」

「え?」


 あ、やらかした。



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