14.ネクタイ

友達の結婚式に行くから、とスーツ姿の彼。

「あ、ネクタイ結ぶのやってほしい」

高校はずっとネクタイだったのだから、結んでもらわずとも自分で出来るだろうに。普段からネクタイを結ぶような仕事ではないから、奥さんにネクタイを結んでもらう夫、みたいなやつが夢だったらしい。

まさか、そんな夢を抱いていたなんて知りもしなかった。それならばこのチャンスを生かして、是非とも願いを叶えてあげたい。簡単な話だ。ネクタイを結ぶだけ。たったそれだけ、なのだけれど。

「……え、あ、えっと、」

「あれ、もしかして、」

ネクタイを持ったまま固まるあたしに、同じように、結んでもらう体勢のまま固まる彼。

「もしかして結べない?」

「む、結ぶ! 結ぶから! ちょっと待って!」

遥か昔に結び方を誰かに教わった気がする。しかしその教わった中身は全く覚えていない。

確か、ここを通して、それからこっちで……。

モタモタと結んだり解いたりを繰り返すあたしを見つめ、それから数十秒。遂に、彼が「ふはっ」と笑い声を零した。

「これがこっち」

「……うん、」

「これをここに通す」

「ん、」

「んで、形整えて」

「あ、できた!」

大満足なあたしの隣で、くすくすと笑う彼。一つ睨んだものの、この状況でそんなものが通用するはずもなく。出来ないパターンもありだな、なんて、彼もまた満足そうにしているのが悔しい。

「やっぱ二次会参加すんのやめるかな」

「え、なんで? 楽しんでおいでよ」

「誰かさんのせいで、好きな人とイチャイチャしたい気分なんですぅ」

「ん?」

あたしのせい?



220118





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