08.安売り
年末年始の安売りセールは戦争である。目を付けていた商品の中から厳選し、長蛇の列でスマホを弄りながら情報を収集する。次はこの店に立ち寄ろう、と決め、今し方買ったばかりの物たちを彼に預けた。
「もう飽きた」
「カフェか車で休んでて良いよ」
「え、まだ買うの?」
「うん、あと三店舗は行く」
あたしの言葉に、彼は困ったような顔をして、それから意を決したのだろう。恐る恐る、という感情を分かりやすく顔に出して「そんなに服いる……?」と。
あたしの機嫌を害すとでも思ったのだろう。そんな彼の一言で動じるようなあたしじゃないことくらい、彼が一番わかっているだろうに。
というか。
「これ、全部あたしの服じゃないよ」
「じゃあ誰の……え、俺の服?」
「うん」
「え、俺は安売りの男なの……?」
セール品で済まされるような男、という立ち位置にショックを隠せないようだけれど、これは生活費をやりくりする上で仕方のないことなのだ。申し訳ないけれど、我慢してもらうしかない。
「大丈夫、愛に価値は関係ないから」
「じゃあ良いや! ……ん?」
上手く誤魔化せているうちに次のお店に逃げ込もう。
220106
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