三、掃除婦達
「どうしょう、どないしたらええんや」
ハウスキーパー派遣会社から派遣された掃除婦のおばちゃんはうろたえていた。
足下には粉々に砕け散った陶器の破片が散らばっている。離婚調停が長引き、夫婦共に住めなくなった家の掃除をまかされ掃除していたのだが、掃除機のコードが箒にひっかかった。箒が倒れ壷にあたり、ドミノ倒しのごとく壷が床に落ちて見事に砕けてしまった。
「どうしょう、どうしょう」
砕けた壷の破片を前におろおろと立ち尽くす。
「おばちゃん、終わった?」
他の部屋を掃除していた後輩の掃除婦がやってきた。
「あ、あのね」
「え? どうしたんね?」
後輩ははっとした。おばちゃんの足下に散らばる陶器の破片。
「割りはったん? ね、割りはったん?」
おばちゃんが力無くうなずく。
「コードが引っ掛かってしもうて」
後輩もまた、困った顔をした。が、何を思いついたか、ぱーっと明るい顔になる。
「大丈夫! 保険や、保険に入っとる筈や。会社に言ったら、きっと保険でなんとかしてくれる!」
真っ青だったおばちゃんの顔が、みるみるほっとした表情になる。
「そうやな。保険があったわ。よかったあ。ああ、ほっとした。あ、……ちょっと待って」
おばちゃんは足下に堕ちていた破片の中からきらりと光る物を取り上げた。それは円盤状の金属片だった。
「これ、なんやろ? 壷に入っとったんやろか?」
おばちゃんが指ではさんでつまみ上げた。
突然、金属片が光り出した。驚いて取り落とす。金属片が床を転がりながら叫んだ。
「アフターサービス ハ 万全 デス。シバラク オ待チ下サイ。尚、メッセージ ノ 終了トトモニ コノ発信器ハ消滅シマス」
金属片は発信器だった。パシュッという音と共に雲散霧消する。二人の掃除夫はあっけに取られて見ていたが、顔を見合わせるや笑いだした。
「今のはなんだったんだろうね?」
「アフターサービスは万全って言ってたよね? どういう意味なんだろう?」
ピンポンと玄関で呼び鈴が鳴る。誰か来たようだ。
後輩の掃除婦は走って行って玄関を開けた。一台のドローンが浮かんでいた。約五十センチ立方くらいの荷物を持って。
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