少女は狼の夢で踊る2
「今学期から赴任した誘宵シローです。源氏名のようで気恥ずかしいのですが…。
フフ、面白そうな奴が来たな、と思って気兼ねなく声をかけてくださいね!
ではこれからよろしくお願いします。」
ホストの様な、漫画の悪役の様な、教師にしては不健全な色香を放つ元・夢の御仁、誘宵先生は、思いのほか爽やかな笑顔と話口調で、完結に自己紹介を締めくくった。
「はい、ありがとうございます。
えー…、誘宵先生は遠方から転勤なすってきたから、学校も土地も皆より詳しくない。
まぁ何かあればサポートしてあげるように。
ではHR終わり!」
先生達が教室を出た後、教室は朝から小さなライブハウスの様に騒然とする。
「え?教師とか絶対嘘乙じゃん、どっからみてもホストじゃん!!」
「それな!勉強より恋愛について教えて欲しいわっつってね。」
「アレ何?ゲームのキャラか何かか、マジで。」
女子も男子も、あちこちで新副担先生をネタにプチ談義を繰り広げている。
…全く信じがたい。
こんな、こんな仕込まれているとしか思えない運命的な出会いが、一介の高校生に過ぎない自分の身に起こるなんて。
まぁ後に知り合う人の夢を見たという話は聞いたことがあるし、特別なことではないのかもしれないけれど。
第一、見かけは同じでも、受ける印象は全く異なる。
さながら狩猟を冷たい笑みで見つめる月と、正道を明るく照らし未熟な羊達を導く陽、それほどに。
それに、美形とドラマチックな再会を遂げようが、男性と口づけをする夢を見ようが、全く関係がない。
私が好きなのは…。
「おい。」
「はいッッ!?」
心の中で名前を呼んだ当人が目の前に、いた。驚きのあまり体がビクッと痙攣する。
「なんだ、ああいうのがシュミか?」
「…へっ?」
「食い入るように見てたろ。」
ああ、誘宵先生の話か。
「いやっ、まぁきれいな人だなぁとは思ったよ。でも別に…」
狼牙の意味深な探りの入れ方に、心臓が期待の音を上げ、声が上擦る。
「ふん、ま、いいけどよ。肩入れすんのもほどほどにしとけよ。
あのエロ教師、なんかきな臭ぇ。」
「え?…何かあるの?」
「…勘。」
「偏見の極みだなぁ。」
「ともかく不用意には近づくな。
お前みてぇなパッとしねぇ世間知らずな女、格好のカモだからな。」
どこか怒ったように言いたいことだけ言い、狼牙は足早に教室を出る。
どうしたんだろう?
狼牙が他人を気にくわないことなどしょっちゅうだが、私にまで愚痴ったり忠告したりすることは珍しい。
そして彼の勘は、確かに結構当たる。
少しばかり、気に留めておいた方がよいのかもしれないが…、やはり誘宵先生とは少しだけ話をしてみたい!
言ってしまえばただの好奇心だが、今回ばかりは特別でかなり異質なシチュエーションだ。
気分の高揚も相まって、その欲気は抑えきれそうにない。
あの狼牙が、私の、男の人への反応を見てくれていた。そのうえで心配して声までかけてくれた。
恋愛感情抜きでも、私を少しは大切に思ってくれているんだ…。
その彼の行動は私にいつも以上のやる気を起こさせる原動力には十分だった。
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