第31話 作戦会議
夏休みが終わったと思えばすぐに体育祭の練習が始まった。体育祭は全て学年対抗なので、先輩たちに怯える心配はなかった。
「今年は体育祭だ! 勝つための作戦をみんなで考えるんだ!」
僕たちが参加する種目は障害物競争、棒倒し、騎馬戦の3つ。棒倒しは男子、騎馬戦は女子の競技になっている。棒倒しと騎馬戦は、偶数クラスと奇数クラスに分かれて試合を行うため、他のクラスとの連携も必要になってくる。
「まずは障害物競争からだ! 『それぞれがベストを尽くして次の人へバトンを繋ぐ!』これはどうだ?」
スポーツ万能で、クラスの中心人物である平井が提案する。それってスローガンじゃない? と言える雰囲気ではなかったので、口を噤んだ。
「おお! それいいかも!」
「これなら勝てる!」
「じゃあ、次の作戦決めるか!」
教室は賛成の声で騒がしくなった。クラス全員のテンションが怖いほど高い。この国の中学生に与えられる『ポイント』のせいだろうか。
実は、夏休みが始まると同時に先生がポイントについて軽い説明をしたのだ。
「ポイントは、将来、君たちが仕事をする上で必要な物事……例えば教師ならば勉強の能力だったり、周囲をよく観察して状況に応じてより正確な判断を下せるか、という能力を持っている必要があるのだが、この能力が一つ一つポイント化されていて、基準を満たしていないと教師になることは出来ない。日頃の生活で稼いだポイントを基に、就ける仕事がだいたい決まってくる」
その後、すぐに体育祭の話に切り替わった。これは、体育祭が大量のポイントを獲得できるチャンスであることを遠回しに伝えたのだろう。それに気がついた平井は、今こうして教壇に立ち、クラスをまとめようと必死になっている。
他の人も、平井を見て気づいたようで、やる気を示して、全力で取り組んで楽しもうとし始めた。
「次は棒倒しと騎馬戦だが、あれは他の奇数クラスとも相談したいところだな。和田、他のクラスとの連携をお願いしたい。頼めるかな?」
「え、僕ですか? 構いませんけど」
「それと、もう一つ和田に頼みたいことがある。敵チームの偵察だ! 敵を知ることで自分たちは対策出来る! どうだ、お願いしてもいいか?」
「あ、はい、わかりました。その2つ、引き受けます。それはそうと、敵も偵察しに来る可能性もあるので、それを阻止するメンバーが欲しいです」
こちらも偵察されることには十分気をつけなければならない。こんな感じで大声で叫んでいれば作戦が筒抜けになるのは当然だとしても、隠れて作戦を練っているのを聞かれるのはまずい。せめて、偵察隊を阻止する人が必要だ。
「そうだな。じゃあ仲の良い宗田と川内が阻止に回ってくれないか?」
「俺はいいですよ」
「啓太と一緒ならどこでもいいですよ」
こんな公の場で好意をあからさまにするなんて、僕は到底出来ないだろう。みんな大夢が僕に好意を抱いているこを知らないからいいのだが、僕は恥ずかしくてたまらない。
「まぁ、ある程度決まったから、今日のところは解散で!」
バイトの時間も迫ってきているので、すぐに帰ることにした。
「亜子、途中までだけど一緒に帰る?」
夏休み入る前は、小学校の時みたいに一緒に帰宅していたが、夏休み終わってから一緒に帰っていなかった。亜子に友達ができて、話す機会が減ったことも理由の一つだろう。
今日はバイトを控えていて忙しい。だからこそ彼女と帰りたかった。
「うん! 最近一緒帰ってなかったから、ちょっとだけ。ちょっとだけ寂しかったかも」
「そうなの? じゃあ、これからは毎日一緒に帰れるようにするよ」
「そうしてくれると嬉しいな。帰り道1人じゃつまんないから」
「まぁね。1人じゃ寂しいよね」
教室を出て階段を降り、靴を履き替えて校舎から出ると、肩を叩かれた。反射的に後ろを振り向くと、頬に指の先が当たる。
「引っかかった」
そこには、僕の頬に人差し指を当ててニヤニヤしている金髪の男子生徒がいた。
「あ、久しぶり」
「岩井さんだ。久しぶり」
「久しぶり――って、おーおーおー、2人とも仲良すぎだよね。もしかして、付き合ってたりする? あ、それなら俺、邪魔者じゃん! ってことで」
隣にいる亜子を見つけると、すぐに僕たちを置いてどこかへ行こうとした。このまま勘違いされたままだと亜子に悪いと思い、引き止める。
「ちょ、ちょっと待って、僕たち付き合ってないよ」
「そ、そうだよ!」
僕と亜子が慌てて首を横に振ると、岩井は「ふーん」と言いながら僕たちの顔を交互に見た。疑っている様子をここまで見せつけられたらどうしても目をそらしてしまう。
「あ、そ、そういえば、体育祭僕たち敵同士だよね! お互い悔いのない戦いをしよう」
僕は恥ずかしさに耐えきれなくなって、話題を変えようと試みた。岩井はまぁ、今回のところは許してやろうと言いたげな目で僕を睨んだ。
「正直、おまえらに負ける気はねーぞ」
「僕たちも、負ける気はないよ。まぁ、本番になればすぐにわかる話だね」
「そうだな。どれくらい強いか、俺に見せつけてくれよ! お2人の邪魔するのもあれなんで、じゃあね」
そう言い残してどこかへ去って行った。こうやって2人で並んでいたら、恋人同士に見えるのだろうか。それなら、彼女に不快な思いをさせてるのではないかと思ってきた。
僕はただ恥ずかしいだけで、嬉しくもあるのだ。だって、本当に彼女と恋人同士であれば、それは本望だからいいのだ。しかし、彼女はどう思っているのだろうか……。
清々しい空に尋ねてみても、明確な回答は返ってこなかった。
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