第32話 試行錯乱の時期
今日も、日が暮れ始めた頃に客が一気に増えた。それと同時に注文の数も増え、厨房は慌ただしい空気になる。僕たち接客係は、お客様に向かって笑顔をばら撒き、お客様の注文を忠実に運んだ。
たまに来る面倒な客が疲れる一番の要因で、そういう人が店に来ない日はあまり疲れない。厨房の前と席を行ったり来たりして、ずっと歩きっぱなし。辺りがすっかり暗くなった8時ごろに、客の数は激減して、ゆっくりと休む時間ができる。
カウンター席に座り、全員が羽を休めていると、店内にあるテレビが最近相次いでいる不可解な謎の死について映し出した。
「この不可解な死に共通して見られるのは、全員が中学生ということです。依然として、他の共通点や原因はわかっておらず、原因解明に向けて――」
この不可解な死を遂げるのはこの国だけのようで、他国にこのような死に方をする人はいない。
「この国って、何でこうも怖いんすかねぇ。最近では成績優秀な学生が行方不明になる事件もあって、実際に俺の友達が行方不明になってるんすよ」
バイトの先輩が不意に喋り出した。僕の産まれる少し前までは他国との関係が悪く、観光客の一人一人に怯えていた時期もあるそうだ。多分、先輩はこのことも踏まえて言ったのだろう。
「ですよね。子供がこんな理不尽な死に方するのはおかしいと思うの。行方不明ってのもおかしいと思う。少子化ってことも考えると尚更。もしこれが一種のテロとかなら、国が動くと思うんだけどなぁ」
それに続いて、女の先輩も不満を言う。僕は黙ったままニュースを眺めていた。
「どちらも一種の病気。とも私には思えるが。とりあえず、今日のところはみんな帰っていいですよ。もう、時間も時間ですので」
カウンターの奥から出てきた店長が優しい口調でバイトの終了を告げる。制服を着替え、それぞれの家に向かった。
僕と歳の近い人たちが理不尽な死を遂げていることに対して、やはり恐怖を感じている。
もしかしたら、僕のいる中学校の誰かが急に死んでしまうかもしれない。それが、僕の友達かもしれない。自分の可能性だってある。そんな恐怖に怯えながら生きるのは息苦しいだろう。
園に到着すると、夕食を食べてから風呂に入って、自室へ戻った。部屋では孝がパソコンを広げ、何かについて調べているようであった。彼のイメージを崩壊させるメガネがこちらに向く。
「お、啓太か、お帰り」
「ただいま。孝がパソコンで調べものなんて珍しいね」
「まぁな。俺さ、最近起こっている謎の死について調べてるんだ。もしも、これが病気だとすれば対策できると思うんだよ! その病気を未然に防ぐ薬を開発しようと思ってな」
孝がここまで本気な目をしたのは初めて見た。彼の素晴らしい目標と熱意に感銘を受けて僕も応援したくなったが、この病気について僕は何も知らない。否、僕以外も知らないはずだ。
もしかしたら、国がこの病気に関する情報を、何らかの理由で制御しているのかもしれない。そうなれば、余計に情報を得ることが難しくなる。どちらにせよ、僕が彼を直接的に応援することは無理だと思う。
「じゃあさ、実際に医者と会ってみて、話を聞くとかしてみたらどう?」
いろいろなことを提案したり意見を述べたりして、彼にたくさんのことを考えさせれば、成長に繋がると思い、この提案をした。
「いいかもしれないな。早速、今週末にお邪魔していいか聞いてみよっと」
「ちょっと待って、今日はもう遅いから、明日聞けば?」
「それもそうだな」
電話を取り出そうとする孝は手を引っ込めた。
「それと、もう今日は寝た方がいいよ。明日に備えて休むべきだよ」
「たしかに。んじゃあ、おやすみ」
孝はパソコンを閉じて、ベッドの上に横たわる。僕も電気を消した後、彼に続いてベッドに倒れこんだ。
「おやすみ」
寝る前に、自分のことについて考えたくなった。僕は将来なりたい職業なんてないし、夢や理想も無い。正直を言うと、今の生活が心地よく、ずっとこのままでいたいと思っているからかもしれない。
時間が止まってくれるのであれば、別れという言葉が架空のものとなって一生無縁のものとなるだろう。しかし、現実で時間は止まることなく、出会いと別れを繰り返しである。出会いは偶然にして必然で、別れは理不尽にして残酷だ。
生と死に関しても、産まれては死ぬ。産まれては死ぬ。というサイクルに人は流されているのだと思う。それならば、生きるとは偶然であり必然的な存在。死ぬとは理不尽極まりない、残酷な物語の結末にしか過ぎないのではないのか?
今、問題になっている謎の死に関しては理不尽ではあるが、もしかしたら、何らかのサイクルに流されて死んでいるのではないかと思った。しかし、それならば、他の国でも同じような謎の死が訪れる人がいてもおかしくないのでは? と思った。
そんなこんなで、僕の考えが迷宮入りした時点で眠気は最高点に到達する。脳は一切の情報を遮断し、僕を夢の世界へと誘うのだった。
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