第24話 敵より先に、相手の姿を捉える
ツナミ・タカユキ艦長が発案した作戦では、敵装甲艦を砲撃するに当たり〈カシハラ〉は敵艦後方からの接敵を企図する、となっていた。
正面切っての砲戦となれば例え帝国軍に砲戦の意志がなくとも、何かの間違いから偶発的な発砲に繋がる危険がある。また航宙艦はほとんどがその推進軸上に主砲を配置しており、探知機器が追う熱源の主たる発生源である推進機器は艦尾を向いているので、後方からの接敵・攻撃──つまり古来よりの〝ドッグファイト〟が最善手とされている。
そういう理由で、現在のところ先行している〈カシハラ〉は、後方を追尾中の
この指針に沿って航宙科が出した〝策〟は、
ツナミはこの〝策〟を了とした。
6月12日 0300時 【H.M.S.カシハラ/艦橋】
〝先ず〈カシハラ〉は敵艦に先立って
「……
戦闘配備の〝
〈カシハラ〉は
以降、可能な限り敵艦との相対速度を積み上げるために加速をせず、慣性航行にて跳躍点の空域へと侵入する。
6月12日 0315時 【H.M.S.カシハラ/機関制御室】
〝
『機関室、
艦橋からの副長の声に、〝
「──
「反応炉内、超弦励起状態を確認しました」
同じく〝
「──こちら機関室……
『
ソウダ機関士は機関長に目で確認すると、慎重な面持ちで
6月12日 0318時 【H.M.S.カシハラ /艦橋】
跳躍点で〈カシハラ〉は、反応炉内に生起したタンホイザーゲートの直径を広げて
「
探知機器が機能していない
「──針路上に障害……なし!」「周辺空域に船影、ありません」
「よーし!」 イツキは声に出して頷いた。
〝そして
〈カシハラ〉はシング=ポラス星系側の跳躍点〝G〟に突入した際の速度で、当星系の跳躍点から出現することになる。また、〈カシハラ〉を追って跳躍点に侵入した帝国軍艦も、やはり〈カシハラ〉とほぼ変わらぬ相対速度で
──
だが
『反転減速、はじめ──』 CICから跳躍後の各部の状況を確認した
それを聞いたミシマ・ユウが艦橋で号令を下す。
「
操舵士のコウサカが復唱と共に操艦に入ると、艦の前後で姿勢制御スラスタが全力で噴射を開始する。操艦の際には即応性に劣る
航宙艦としては〝軽い〟部類の〈カシハラ〉は、艦首が回り始めるや軽やかにステップを踏み始める。
「──z
スラスタの噴射による〝当て舵〟を待たずに
「……サイドスラスタ、逆噴射ー」 航宙長の指示は続く。「──もどーせー、舵中央、取舵にあてー」
その振付けに応えて〝
ミシマは航宙長の手並みとそれに応えた操舵士、そして艦の挙動とに満足しつつ、更なる指示を下す。
「
〈カシハラ〉は跳躍点から飛び出して来た方向へと艦首を翻し、逆加速に転じた。
そして十分に減速を終えてから再び艦首の向きを元に戻し、敵装甲艦を待ち伏せるのだ。
6月12日 0325時 【H.M.S.カシハラ/
──
「──〝
主管制卓のシンジョウ・コトミ宙尉が簡潔に報告を上げた。電測管制員のタカハシの声が続く。
「各種欺瞞データの発信を観測、問題なし」
ツナミは艦長席の手元のスクリーン上に、もう一隻の〝カシハラ〟が現れたのを確認する。
用意された
──つまりこういうことである。
帝国軍装甲艦は
──敵より先に、相手の姿を捉える。
これは古来より戦場で言われてきた鉄則である。
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