第21話 なるほど…… 当に〝戦の女神〟なのだな……
6月11日 0800時──
シング=ポラスの星系内──。〝
当初5箇所を確保していたはずの
──いま思えば〝選択肢の数〟よりも、こういった〝選択の局面〟をこそ増やすべきだったか……。
〈カシハラ〉の
もっとも、彼らを追尾する
一方、その〈カシハラ〉を追う
〈アスグラム〉は先行させていた〈カシハラ〉の〝頭を押さえる〟軌道へと進み出るべく、加速・増速をした。
途中、1万キロの距離を
とりあえず、双方が十分な余力を残して相対位置を入れ替えることができたわけである。
その後〈カシハラ〉は加速に備えて慣性航行に入り、同じ進行針路上を先行することになった〈アスグラム〉が更に加速を続けた結果、再び両艦の距離は十分に開いている。
6月11日 0800時 【
メインスクリーンに映る航宙巡航艦を凝視しつつ、装甲艦〈アスグラム〉艦長アーディ・アルセ大佐は、小窓画面の中のラウラ・セーデルバリ機関中佐に訊いた。
「──どうだ?」
〈アスグラム〉は
そんな彼に
『……中々
その値は想定された値の中では最悪のものであった。メインスクリーン上の別の小窓──第三艦橋からマッティア中佐が小さく息を洩らて言う。
『思ったよりも速いな ──我が装甲艦並みじゃないか』
やはり情報部の懸念の通り、航宙軍は練習巡航艦の真の姿を欺瞞していた。
「装甲艦との交戦は一応の想定だったのだろう」
装甲艦の艦長はそう評価した。
だが仮面を剥いでしまえばやはり並以下の巡航艦でしかない。装甲艦の優位は動かしようがない。
アルセは艦橋付きの
「ハッ ──接舷隊は敵艦を捉えています。攻撃開始は定刻通り。「偽装機雷」の方も追尾できてます」
「よし」
アルセは報告に短く応じると、艦長席のシートに深く腰を据えた。
* * *
皇女殿下の座乗を表す『エリン第4皇女旗』のはためく
綿密な観測と計算とで推定された〈カシハラ〉の進行針路の軸上に降ろされた航宙艇は、〈カシハラ〉と
またその前後では、数発の〝仕掛け〟──偽装された誘導宙雷──も
いま〝
6月11日 0805時 【
「エクステット上級兵曹長── わかってはいると思うが、私情は禁物だぞ」
狭い接舷航宙機動艇内の指揮卓から、艇の外へと通じる
彼女はその声に振り返ると、接舷隊の指揮を執る宙兵隊少佐に肯いてみせた。微かに上気した表情は十分に抑制された
管制航行に移行した艇の
ピーア・エクステット兵曹は装甲艦〈アスグラム〉配属の接舷攻撃支援機
いまその航宙軍の
「──ピーア……あの
復讐──それはミュローンの習いだ…──することの出来ない姉に、〝
そうしていると離床1分前のアラームが鳴った。オーサはパイロットスーツのバイザーを下ろして表情を消すと、操縦桿を握り直した。
6月11日 0810時 【H.M.S.カシハラ/艦橋】
『全艦の気密扉およびハッチを閉鎖せよ──総員、戦闘配備発令、戦闘配備発令』
艦長のツナミ以下CIC要員が移動を終えたいま、艦橋の窓には装甲シャッタが降ろされ、各員が各自の席で戦闘宇宙服の身を固定している。
練習艦である〈カシハラ〉の艦橋は広く造られていたが、それでも息苦しさを感じさせられる時間に入りつつあった。
「やっぱり
航宙長の席である統括制御卓のイツキが副長席の前に立つミシマを見上げて言った。ミシマは艦橋正面の窓に降ろされた装甲シャッタの内側に映像が点るのを確認しつつ応える。
「軌道遷移に備えての慣性航宙中に、接舷移乗を試みるのは定石だからね」
それから指令席のエリン皇女殿下をふと見遣る。
エリンは自ら定位置と定めた指令の席に収まると戦闘宇宙服をシートに固定している。ただ、ヘルメットは艦長のツナミや副長のミシマらに
そんな皇女が指令席から正面に顔を向けるの見て、艦橋の面々は密かに身を引き締める。それはミシマもまた同じであった。
「──なにか?」 目が合うと、そう訊かれた。
「いえ……」 ミシマは曖昧に答えた。
──なるほど…… 当に〝
ミシマならずともそんな想いに囚われてしまう、そんな横顔だった。
……だが果たして〝勝利の女神〟なのか〝冥府の乙女〟なのか──。それは誰にもわかりはしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます