第18話 パーティー
「この度の戦いにて多大な功績を挙げられました火乃宮 蓮様がご入場されます!」
きらびやかなドレス姿の美しい女性たちが立ち並び、思い思いに談笑している。
ここは王城の呆れるくらい広いホールに
ホールへの入室に際してメイドから名前を読み上げられた為、入った瞬間に大勢の視線を浴びることとなった。
今この場所には第3位貴族までのいわゆる上位貴族が招かれている。
居心地が悪いながらも、私が主役のパーティーのため周りのヒソヒソ声を聞きながら壇上へと歩いていく。
壇上には国王がおり、そこで改めて第3位貴族の
「此度の功績を称え、火乃宮蓮をオーラスト王国第3位貴族へと叙爵する。」
「
一連の流れが終わると歓談となるが、私が思ったほど貴族たちの動揺や苛立ちが少ないのは、事前に言い含めていたのか納得しているのかだろう。
普通に考えていくら功績があったとしてもぽっと出の人物を上位貴族に取り立てるのはあり得ない。それほど私が王国にとって重要なのだと思わせた。
飲み物を取りに行こうとしたところで、水色のドレスにダイヤが散りばめられたティアラを着けた第一王女のクラリーネが笑顔で近付いてきた。
「ご無沙汰です火乃宮様。この度は叙爵誠におめでとうございます。」
「ええ、ありがとうございます。」
「もしかして火乃宮様は今後もオーラスト王国に居てくださいますの?」
「いえ、まだ悪魔との戦いは始まったばかりです。クロスティーナさんに聞くと複数の国で貴族位を持つことは認められているとのことでしたので、将来の選択肢を増やせればと思っています。」
「さすがです火乃宮様。将来を
そう言いながら腕を抱え込みその豊満な胸を押し当てて顔を覗き込んできた。その
「あらクラリーネ様、女性が殿方と人前で抱き着くのは、はしたないのではありませんか。淑女たるものつつましやかでなければなりませんよ。」
「これはすみません聖女様。アスタルト教では人前での異性との接触は控える教えでしたわね。」
そう言いながら腕は放したが、クラリーネの距離はくっつきそうなほど近かった。
2人は互いに笑顔だったが、その背後にはそれぞれ龍や虎が現れそうな雰囲気がある。
この世界に来て僅か2週間ほどで2国間の思惑に巻き込まれている現状に
今でさえこの状況を遠目に眺めている上位貴族のご令嬢たちも隙あらば、という空気を
(男である私を取り込むには女性をあてがうのは一番簡単で効果的だと私も考えるが、彼女たちが求めているのは火乃宮 蓮ではなく、その能力の方だと分かっていると素直には喜べない状況だな。)
しかもこの後は舞踏会があるというのだから、どうなることか今から気が重たくなってしまう。
・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくの歓談の後にホールに管弦楽団が入ってきてムードのある音楽を奏で始めた。中央の辺りは人が場所を開けて壁の付近でダンスをする者たちを見ていた。
音楽が始まると、クラリーネ王女が私をダンスに誘ってきた。正直に言って踊った経験が無いので踊れないと伝えたのだが、「大丈夫ですわ」とやや強引に腕を引っ張られ中央で踊る。
雰囲気や彼女のリードに任せて踊っているが、それがダンスの作法と言われてしまえばそれまでだが、耳元に艶やかな声で「もっと密着して」とか、「もっと腰を抱え込んで」など言われるとさすがに困ってしまう。
「ふふっ、上手ですわよ蓮様。」
「あ、ありがとうございます。」
「ところで、良い出会いはありましたでしょうか?」
唇が触れるのではないかと心配する距離まで顔を近づけ、首をかしげてこちらを覗き込みながら聞いてきた。そのあざとさを感じさせない表情に視線が固定されてしまう。
「そうですね、この世界に来てまだ2週間ほどですが多くの方に会うことが出来ました。」
「まぁ素晴らしいですわ!・・・ですが、私との出逢いは・・・」
クラリーネが言い終わる前に曲が終了し、それと同時にクロスティーナが素早く間に入ってきて会話を中断させた。
「失礼。2曲目は私と踊ってくださいませんか、火乃宮様?」
「あらあら、聖女様はせっかちですのね。女性があまり早過ぎるのでは殿方を満足させられないのではありませんこと?」
「な、な、クラリーネ様は何を・・・」
後半の言葉をクロスティーナがどう受け取ったのかはその顔が朱に色づいていることから理解できる。
「と、とにかく、火乃宮様あちらで踊りましょう。」
そう言われるや否や、強引に腕を引っ張り別の空いている場所へ連れていかれた。
踊り始めると先程までの焦った様子は
「火乃宮様は王女殿下のような女性が好みなんですか?」
「いや、まぁ、何と言いますか。」
「あら、先程は嬉しそうな顔をしておいででしたよ。」
「まぁ、魅力的な女性に密着されては・・・これでもごく普通の男性ですから。」
そう言った今の状態もクロスティーナと密着している。
「では、私でも喜んでいただいておりますか?」
「それはもちろんそうですね。ただお二方に言えるのは、悲しいですが私自身を見ていないという事ですかね。」
寂しそうな表情を作り、少しの本音を伝えた。
「私には今の火乃宮様しか知りません。あなたにとっては新しく手にした能力に群がっているように見えるでしょう、ですがその力を含て火乃宮 蓮という人物そのものなのでしょう?」
言っていることはわかるが、何となく消化しきれない。きっとどこの世界でも人間とは同じ性質なのだろう。
日本にいた頃でさえ、私の地位とお金に集まってくるのは女性だけではないく様々な意図をもった人達が集まってきていた。
となれば必要なのは私の人を見る目ということになる。
「おっしゃる通りですね。少し考え方を変えなければいけませんね。」
「ふふっ。そうですわよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クロスティーナとのダンスを終えると、待ち構えていた上位貴族の令嬢から続々とダンスの申し込みをされたので、時間の許す限り付き合い自室となっている部屋へと戻った。
テーブルには先日購入した魔具と第5位魔石が7種類置いてあった。
「・・・疲れた。こっちの世界は肉食系女子しかいないのか。」
ベットに身体を投げ込み一息入れると、瞳をギラつかせた女性たちが
今日は精神的に疲れたのもあってこのまま睡魔に身を委ねようかと思っていると扉のドアがノックされる。
「どちら様ですか?」
「ピナで~す。」
「レイノールです。今よろしいでしょうか?」
先日護衛を務めてくれた護衛の2人がドアの外に立っていた。ただその格好は薄い絹のような布を羽織っているだけで、はっきり言って下着が透けてしまっていて
「そ、そんな恰好でどうしたのですか?」
「蓮様はたくさんの女の子と密着して踊っていたからきっと今頃ベットで
「火乃宮様が良ければ私とも楽しみませんか?」
言葉はオブラートに包んでいるようだが、その姿と2人の
悶々としていたのは事実としても、先程慎重にその人物を見定めていこうと決心したばかりの心があっさり折れかかってしまうので、ぐっと耐える。
「すみません、今日は少々ダンスで疲れてしまったようで、また今度お相手願えませんか?」
「え~、ピナじゃ不満なの?」
「私ではご満足いただけないですか?」
「いえ、お2人は魅力的ですし・・」
とりあえずこの場をどう逃れようか言葉を考えていると、笑顔のクロスティーナが歩いてきていた。
「あら、護衛のお2人が殿方の部屋の前で何をされているのですか?」
「これは聖女様こんばんわ。いえ、男性はダンスの後にはそういう気分になる方が多いので、ピナと私で解消しようとしているんです。」
「そうなんですか。しかし少し聞こえてきたのですが、火乃宮様はお疲れのご様子。後日に改めたほうが火乃宮様も満足されるのではないでしょうか?」
有無を言わせないようなクロスティーナの迫力に2人はたじろいでします。
「・・・仕方ありません。では火乃宮様また後日楽しみましょう。」
「残念だなぁ。またね蓮様!」
2人の後姿を見送ると、クロスティーナがずいっと部屋に押し入って顔を近づける。
「そ、その、火乃宮様はそういう気分なのでしょうか?でしたら私頑張りますので・・・あっ、でもその、これでも聖職者なので婚前には
(あぁ、ブルータスお前もか・・・)
その後あれやこれやと言葉を飾ってクロスティーナを退室させることが出来たが、精神的疲労の限界を超えてしまった私は泥の様に眠りについた。
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