第二章 反感

第19話 兄弟

 夢を見た。自分がまだ小学生だった頃の。あの時はまだ兄とも一緒になって遊んでいた。外で泥だらけになるまで遊んで母親によく小言を言われていた。


(そう言えば昔は3人で遊んでいた。もう1人、1つ年上の女の子で名前は確か・・・水島みずしま 彩芽あやめ。そうだ、水島グループ総裁そうさいの一人娘だった。)


 小さい頃なんて男も女もなかったから、家の庭を冒険して怪我したりもして、男の遊びによく付き合っていくれていたものだった。家の付き合いで知り合った友達だったが、あの日々が今になっては一番楽しかった記憶だ。


(どうして疎遠そえんになってしまったんだっけ・・・そうだ!中学生の頃に水島グループの経営が悪化して家に資金援助の打診に来ていたんだ。共同経営という名の吸収で、彼女は人柱として兄の許嫁になってしまって、そこからギクシャクしていったんだった。)


 当時の私にはなぜ彼女が兄の許嫁になったのかは理解できなかった。それどころか反感を抱いていた。なぜなら彼女は私の初恋の相手だったからだ。楽しく遊んでいたあの頃はきっと彼女も同じ気持ちだろうと根拠もなく思っていた。

 

 中学に入ったころから兄と成績を比べられ、私の方が成績が良かったからか、段々兄からはうとまれるような感じになってしまっていた。彼女が兄の許嫁になったのはそんな頃だった。

だからますます裏切られたという思いがつのってしまっていた。


(そういえば彼女と最後に言葉を交わしたのは正式な婚約発表をする前日だったな。私は大学院に通っていて2人はもう働いていたっけ。)


 前日の夜に大事なことを確認しておきたいというメールで近くのレストランで食事をした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「今日はごめんなさい。今まであんまり蓮と話せてなかったから。」


「別にいいよ。」


「昔はよく遊んだのに中学の頃からかな、あんまり話さなくなっちゃったね。」


「それはしょうがないだろ、彩芽は兄貴の婚約者になったんだから。」


「そうだよね。」


「で、確認したいことってなんだよ。」


「うん、そうだね。ねぇ、蓮は私との約束覚えてる?」


「はっ?約束?」


「そう、約束。」


「・・・・・知らねぇよ・・・」


「ふふっ、そっか。・・・じゃあ今の私って蓮にとってどんな存在かな?」


「あ、兄貴の婚約者だろ。」


「そっか、私は蓮のお兄さんの婚約者か・・・。ずいぶん遠くに来ちゃったな・・・」


「いや、家族になるんだからむしろ近くなってるだろ。」


「そ~ゆ~ことじゃないんだけどなぁ。ねぇ蓮、私はあなたのお兄さんの婚約者なの?」


「いや、だからそういってるじゃん。」


「・・・そうだよね!うん分かった!ごめんね呼び出して、それじゃあ・・・さよなら。」


そう言って去って行った彼女の瞳は心を決めたようだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(あの時の私は嘘をついていた。彼女との約束は将来お嫁さんに貰う事。もしあの時に自分のちっぽけなプライドを捨ててそのことを伝えていたら変わっていただろうか・・・)


 それからは彩芽とは一言も話していない。

結婚式の時にあの兄が私に向けた勝ち誇ったような表情を見たときは自分がひどみじめに感じた。

あの時の彼女は私に救いを求めていた。兄の元から自分を連れ去って欲しかったのだろう。


 だが全ては自分の選択が招いた結果だ。たった一つの選択で自分だけでない、他人の人生も決めてしまう。そんな重圧にかつての私は耐えられなかった、だが今は・・・


・・・・・・・・・・・・・・


「なんで今更あの頃の夢なんか・・・」


 目が覚め、ベットから体を起こすと1人呟いた。

この世界に来て自分で決めているつもりでも周りに流されていた自分に気付き、この世界で自分のやりたいことを考えてみる。


「私の好きなことは何だったろうな。学生時代は研究に明け暮れ、就職してもそれに加えて会社のために身をにして働いていた。でもこの世界で私は・・・自分の好きなことを見つけよう。」


 そんな思いを抱き、今日の予定を考える。悪魔の動きが確認されるまでは動ける時間がある。

とりあえず今日については先日の魔具をいじって過ごそうと決め、朝食を食べに部屋を出た。

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