第17話 王都観光

 凱旋がいせんした翌日に王都を見てみたいと打診したところ、王国からも護衛をつけることを条件に許可された。その時に要望としていた1000万クローナを私専用のクローナカードというキャッシュカードの様な物を渡された。


 新たに付けられた2人の護衛は、ピナ・クルシュとレイノール・ノービスと名乗った。

 ピナは背が低く、お団子にまとめられたピンク色の髪が目を引く女性で、子供の様な印象だが16歳とのことだ。

 レイノールは逆に背が高く黒い長めの髪がポニーテールにされているが、目を引くのはピナと対照的な胸のボリュームだった。ちなみに年齢は22歳とのことだ。


 どちらにも言えるのは、こんな綺麗な女性が武術なんて出来るのだろうかという思いだった。なぜなら彼女達は可愛らしい私服の様な服装にピナは短剣を2本、レイノールはエストックを腰に下げているだけで、防具を装備していなかったのだ。


 この二人といつものカイとルナにクロスティーナを加えた5人で出掛けることになった。


・・・・・・・・・


「ねえねえ、火乃宮様は何を見たいんですかぁ?」


護衛のピナが人懐ひとなつっこい笑顔で右腕に抱きつきながら聞いてきた。


「えぇと、そうですね。食べ物や魔具まぐといった物を見てみようと思います。」


「そうなんですか!ピナ美味しいところ知ってるから行きませんか?」


積極的なピナに若干戸惑いながらどうしたものかと周りを見渡す。


「ちょっとピナさん、蓮様が困ってますからまず離れなさい!」


ルナが若干怒気を強めた口調でピナをたしなめた。


「すみません皆さん。彼女はまだ騎士になってから日が浅く子供気分が抜けきっていないものですから。ほら、ピナ離れなさい。」


左側にいたレイノールがピナに替わり謝罪した。


「え~、ピナ迷惑ですか?」


上目遣いにこちらを覗き込んでくる彼女にどうしたものかと考えながら、あまりキツくならないように返事をする。


「さすがに周りの目があるからね。それに女の子があんまり異性にくっつくと誤解されるよ。」


「ピナは全然気にしないのに~。」


そう言いながら流石に二人からたしなめられたので、腕を離して若干距離を空ける。


 そんなやり取りを黙って見ていたクロスティーナからは鋭い視線がピナに向いていたが、それには隣を歩いていたカイしか気付くことはなかった。


 しばらく歩くと、魔法道具を扱うお店があったので、さっそく入店した。

店内は高級店の様に綺麗に陳列ちんれつされており、何に使うかはよく分からないが多種多様な魔具が置いてあった。


見たことの無い物に興味を刺激され見渡しているとレイノールが近付いてきた。


「火乃宮様はどのような魔具をご所望でいらっしゃいますか?」


「そうですね、日常生活に役立つ物が見たいですね。」


 そう伝えると彼女は「でしたら」と言いながら手を引っ張って目的の棚まで案内した。手を引かれながら歩くと、彼女の豊満な胸が腕に当たり、その柔らかな感触を楽しんだが棚に着くとさっと手を離された。


「ここには日常に使える魔具が並べてあります。だんを取ったり涼しくしたり、掃除がはかどる物や洗濯が簡単に出来る物と色々あります。」


「こういった物は皆さん持っているのですか?」


「いえ、やはり値が張りますから、所有しているのは貴族や商人の方が大半ですね。」


 そう聞くと需要はありそうだが値段のために手が出ないのだろう、昔の日本でも初めてテレビが販売されたときは一般市民では手が出せないような値段だったと聞くし、私が作れたら元手がタダだから格安で販売しても十分利益がでそうだと考えていた。


 その後いろいろと見て回ると店の奥の棚に何の札も貼られていない魔具らしきものに気づいた。カウンターが近くにあり中年の男性店員が居た。高級店に似つかわしくない作業服姿でなにか作業をしている。なんとなく詳しそうだったので聞いてみることにする。


「すみません、これは何の魔具なんですか?」


「ん?あぁ、これらは遺跡から見つかったやつなんだが、どんな機能なのか分からんやつなんだ。ただ使えなくてもお貴族様の遺物いぶつコレクターには売れるからな、普通の魔具とは別に並べてあるんだよ。」


(どこの世界でも珍しい物が好きな人はいるな。それも遺跡から見つかったとなればもしかしたらすごい機能の魔具かもしれないという夢も見れるし面白そうだな。)


「それは面白そうですね。ところで魔具とはどうやって動かすんですか?」


「ん?あぁ、あんちゃんあのパレードに出てた英雄様か?そりゃ知らないはずだな。魔具ってのは自分と同じ属性の物なら魔力を込めるだけ、違う属性の場合はその属性の魔石を使うんだ。」


その説明にあの遺物のことが気になったので聞いてみる。


「ではあの遺物は全ての魔石を試したけど分からなかったというわけですか?」


「そういうこった。このゴードン様が調整しても結局うんともすんとも言わなかったよ。興味あるなら買ってみるか?安くしとくぜ!」


男くさい笑顔で親指を立てて遺物を勧める彼の後ろから慌てた様子の人物が駆けてきた。


「ゴードン!お客様には口の利き方を直しなさいと何度言えばいいのです!腕がいい魔具士だからと雇っているのに、苦情を処理するこっちの身にもなって欲しいものですよ!」


「ははっ、すまんな旦那。しがない職人には敬語なんて難しくてな。」


「まったく。大変申し訳ございません火乃宮様。この者には後ほどよく言って聞かせますので、平にご容赦を。私はこの店のオーナーをしておりますモートンと申します。」


オーナーというこの人物はでっぷりとした体型で頭髪が悲しくなりかけているが、雰囲気的にやり手の商人っぽい気がする。


「こちらは何とも思ってないですから気にしないで下さい。それよりこの遺物に少々興味があるのですが、いかほどでしょうか?」


「こちらは材質がミスリルで出来ておりまして、材料だけでも高価な魔具ですので、・・・200万クローナほど頂かないと。」


一般的な家庭における月の生活費の20倍の値段は果たして適正なのか判断がつかない。

返答に困っているとレイノールが交渉してくれた。


「確かにミスリルなら分かりますが、何も使えなければガラクタですよね。再加工するにも費用は掛かりますし、少々高すぎるのでは?」


「いやいや、やはりコレクターの方から見れば珍しいというそれだけでお金を出す価値があるのですよ。」


「ですが見る限りその魔具は外見はただの箱にしか見えません。ずっと売れ残っているのではないですか?多少ホコリも被っていますし・・・」


 その魔具は何の装飾そうしょくもされていない銀色のティッシュ箱の様な形をしているだけで、これといった特徴が無かった。

だからなのだろう、うっすらとホコリが被っており、売れ残りを思わせた。


「で、では190万ではいかがでしょう?」


「150万だ!」


「それではうちは赤字になってしま・・」


「150万だ!」


「それは・・・170万では・・?」


「150万だ!」


「・・・わかりました。それでお譲りいたします。」


「あっ、おまけで全種類の第5位の魔石もセットして下さいねっ!」


「・・・・・・・・・・・・はい。」


 振り向いたレイノールはこちらがドキッとするようなとびきりの笑顔でやりきった感じを出していた。


「いかがですか火乃宮様?」


「あ、ありがとうございます。」


 きっと彼女はドが付くほどのSなんだなと思いつつ、りんとした涼しげな美人の彼女には良く合っているなと考えつつ購入手続きをした。



 魔具の店を後にした私達はピナお薦めの隠れ家的レストランに入った。

お客はパラパラと居たが、そこの料理はどれも日本では見たことがないような食材に食べたことがない味付けだったが、どれも舌に合って非常に美味しかった。

ただ、その食事中に何かにつけて子犬のようにじゃれてくるピナとそれを止めようとし、何度もレイノールの胸が当たるのは周りの目もあっていろいろ大変だった。


 ふと、今日ほとんど言葉を交わしていないクロスティーナを見ると、無表情のようで口元だけは笑顔のなんとも言えない表情を見せていた。

それがどんな感情によるものか、その時の私には知るよしもなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


 しばらく観光を楽しみ夕方ぐらいに王城へ戻ると、ピナとレイノールが団長に護衛の報告に行かないといけないらしく、別れの挨拶をしてきた。


「今日は楽しかったです!また一緒に出掛けようね蓮様!」


とても護衛の言葉とは思えない彼女の言葉だったか、最初からこうなので誰も気にしなくなっていた。


「こらピナ!すみません火乃宮様。本日は何事もなくさいわいでした。今後もお出掛けの際には護衛に参りますので、よろしくお願いいたします。では失礼いたします。」


去って行く彼女達の後ろ姿を見ながらカイがぼそっとつぶやいた。


「あいつらって護衛の仕事してたっけ。」


「王国にも色々思惑があるのでしょう。火乃宮様、気を付けて下さいね!」


若干トゲがあるようなクロスティーナの言葉だったが、今は女性にほだされている状況ではないのは理解しているので「分かりました」と答えておいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここは軍務大臣兼騎士団長の執務室。この部屋の主であるマクレーンは今日火乃宮に付けた2人の護衛からの報告に眉をひそめていた。


「ではやはり彼を暗殺することはほぼ不可能ということだな。」


「はっ、申し訳ございません。彼のレベルを考えると王国の国宝とされる聖剣でも首を断ち切るにはこちらのレベルが足りません。心臓を貫けたとしても体力減少中に回復の魔石を使われてしまえば、殺すには至らないでしょう。」


ピナの報告にマクレーンはため息をついた。


 ピナはその外見から幼く見られることが多く、20歳を過ぎた今でも潜入の際には16歳で通している。

彼女達は騎士団の中でも隠密別働隊おんみつべつどうたいという位置付けになっている。女性という性別とその外見で相手を油断させ目的を達することを得意としている。


 ピナは今日の護衛中に抱きつきながら、鑑定の魔石を押し付け彼のレベル等を確認していた。

そしてそれはレイノールもだった。


「それでは女性の好みについてはどうだった?」


「はっ、幾度かアプローチしたところやはり大きな胸に興味を持っているように見られました。ただ、すぐに乗ってくる感じでは無かったです。」


 レイノールは可能な限りわざとらしく無いように胸を押し当て、彼の反応を見ていた。やはり男性なので興味を持っていたが、極力表に出さないように我慢していたと見ていた。


「そうか、では後は私の方で報告しておく。二人とも下がってよい。」


『はっ!』


二人の退出を見送り自らの考えを自然と口にこぼす。


「女で取り込めれば良いがそれは聖女も狙っているしな。もし教国やその他の国に彼がついた場合、悪魔なき後の争いはその国が中心となるだろうな。」


 それは最悪の事態だが、一応考えておかねばならない未来の可能性の一つだった。

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