第16話 凱旋

 大森林防衛戦の翌日には王都へ帰還となった。本来の戦闘があれば負傷兵の処置や遺体の埋葬まいそう、装備品の確認、倒した魔獣の素材や魔石の回収などの事後処理で相当な日数が掛かるはずだったのが、そもそも今回の戦闘においては誰も負傷していないどころか、戦ってさえいない。魔獣の素材等も肉片が飛び散っているだけで何も回収できなかったのだ。


 そんな状況だったので直ぐに帰還準備が整い、翌日には王都への凱旋がいせんというスケジュールが組まれたのである。

王都では伝令のハーピーが既に防衛部隊の勝利を伝えているとのことで、大規模なパレードと今回の勝利の立役者たてやくしゃである私を祝うためにパーティーまで予定されているらしい。


 正直なところではそこまで大袈裟にされては恥ずかしいという思いもあったが、クロスティーナが言うにはオーラスト王国の国民たちはこの侵攻に対してかなりの不安をつのらせていたため、パレードを見ることで脅威きょういが去ったのだと実感することが目的なので、国民のためにもお願いしますと言われては断り切れなかった。


「火乃宮様、そろそろ王都に到着しますので準備をお願いいたします。」


 王都に近付いたことを伝えてくれたクロスティーナだが、彼女はどこから持ってきたのか純白のドレスを着飾きかざっており、普段とは違いアップにまとめられた髪には銀細工に金で教会のマークが入ったティアラを付けていた。その王女様のような姿は元々の美貌びぼうあいまって神々しささえかもし出していた。


「わかりました。それにしてもクロスティーナさんのその姿は大変美しいですね。」


「あら、ありがとうございます。お世辞でもうれしいですよ。」


「いえいえ、本心からです。」


「ふふっ、安心しました。火乃宮様はここ最近張り詰めたような雰囲気でしたので、笑顔を見られてよかったです。」


聖母のようにこちらをいつくしむ表情でクロスティーナが語り掛けてくる。


「それは・・・しかたありません、まだこちらの世界に招かれて10日程しかたってないですが色々あり過ぎましたから。」


「すみません、おっしゃる通りですね。今回の侵攻の撃退げきたいで多少時間的な余裕ができたと思いますので、落ち着いたら一緒にこの王都の観光でもしませんか?」


「それはとても魅力的ですね。その時にはお願いします。」


 こんな軽口が叩けるのは今回の危機が一先ひとまず去ったのと、その後の騎士団員達、聖騎士達の対応がかなり友好的な反応だったからだ。あの10発のミサイルが敵魔獣を全て殲滅せんめつしたと報告を聞いた時には、腫物はれものを触るような対応をされるのではないかと考えていたが実際はその逆で、英雄のような持ち上げ方をされて正直戸惑ってしまったほどだった。

 


 今乗っているビーグルは通常は人や物の輸送用だが上部が解放されるようになっており、こういったパレードにも使用されている。

 今の私はオーラスト王国国王に謁見えっけんしたときの衣装に、儀礼用のきらびやかな装飾が施された剣を帯剣している。この剣は戦いにおいて一番に武功を上げた人物が掲げるもので、誰が活躍したかを周囲に分かりやすく伝えるための物である。


 解放された上部に出ると、マクレーン団長と各騎士団の部隊長達が待機していた。オープンカーの様になった場所は高さも5メートル位あるので安全のために腰のあたりにロープを付ける。前方を見てみるとそこには王都の城壁がまじかに迫っており、その大きな門が開けられていてビーグルが入れるようになっていた。

 

 既に先触れの伝令から伝わっているのか王都民たちが道の左右や家の窓から手を振っているのが見えてきた。そんな様子を見ているとマクレーン団長から声を掛けられた。


「それでは火乃宮殿、腰の剣を抜いて上に掲げていただけませんか。」


そう言われ腰の剣を右手で掲げるとマクレーン団長が緑の魔石を割りながら大きな声を張り上げた。


「皆の者、我ら防衛隊は悪魔の軍勢を打ち滅ぼして帰ってきた。魔獣たちは当初の想定よりもその力を増しており、厳しい戦いになることが予想されていた。だがしかし、ここに居る異世界からまいられた火乃宮 蓮殿によってその危機は退しりぞけられた!更に今回の戦いでは誰一人欠けることなく帰ってこられた。彼は我らの救世主、女神アスタルトがつかわした英雄なのだ!」


・・・・・・・・

『おおぉぉ~~~~~~~~!!!!!!』


一拍の静寂せいじゃくの後、民衆からの大きな声が波の様に押し寄せてきた。


『火乃宮様バンザーイ!オーラスト王国バンザーイ!』


 遠くに見える人たちも一様に喜んでいるのはおそらく風の魔石を使うことで、拡声器のような役割があったのだろう。

これだけ多くの人の笑顔が守られたと考えれば、恥ずかしいながらも誇らしいものが湧き上がってくる。


 そんな周囲の歓声にかき消されてクロスティーナの小さな呟きは私の耳に届く事は無かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 side クロスティーナ



 剣を掲げ民衆からの声に応えている彼の後ろで私は魔法を発動した。


「【鑑定】・・・・嘘っ!?」


私が見た彼のステータスはもはや手が付けられない状態となっていた。


名 前:火乃宮 蓮(ヒノミヤ レン)

レベル:160    体力:48000  魔力:-----

スキル:知識創造(限定開放)(付与可能)

称 号:統治者 開発者 死を運ぶ者 異世界の理を持つ者 救世の英雄 支配者 悪魔の怨敵おんてき


(なにこれ・・・レベル160!?世界でも有数の実力者の教皇様やマクレーン団長ですらレベル90台なのにありえない・・・心臓を貫いても完全に体力が0になるまで5分は掛かるじゃない。無理・・無理・・・。こうなってはもうその矛先が教国に向かないように慎重にならなければ。)


 この世界での死の概念は体力が0になることか首をねることだ。そして0にならなければ普通なら致命傷だとしても光魔法第3位の回復魔法か、第3位回復魔法が込められた光魔石2個あれば助かってしまう。


 指輪か何かで常に光魔石を身に着けておくのが一般的なので、暗殺しようとしても5分も猶予ゆうよがあれば回復できてしまう。

 更にレベルが160もあればそもそも致命傷を与えたり首をねるのは難しい上に、逆に彼がただ殴るだけでもその威力は致命傷になる。


(各国の争奪戦そうだつせんが始まるわね。おそらく今の彼は地盤じばんを固めるために女性に積極的な興味は示さないはず、なら権力を与えつつ女をからめて取り込むしかない。)


 今までの対応やその人柄を見てきて、彼の考え方やその優先順位がなんとなく見えてきていたクロスティーナはそう考えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


パレードが終わり玉座の間へ案内するとメイドが伝えてくれた。そのメイドは以前クラリーネ王女の側にいたメイドで名前をユリ・ネーラと名乗った。

今後の王国からの連絡については、彼女が伝えるという事だそうだ。


 着いた部屋は玉座の間の隣にある控え室のような場所で、今回の戦果に対しての褒美を下賜かしする式の説明を受ける。

テーブルには貰い受けることの出来る目録が置いてあり、その中から3つまで選んで欲しいとのことだった。目録の隣には筆記用具が置かれており、これに記入して欲しいと言われた。


「お決めになりましたらテーブルにある鈴を鳴らしてください。では、失礼いたします。」


 一通りの説明を終えたメイドのユリは退出していった。

目録には爵位しゃくい叙爵じょしゃくや物や人まで多岐に渡っていた。ちなみに目録の人とはメイドや文官、武官等であった。


(爵位や物は分かるが、人までとは凄いな。ただ、何を選ぶべきか分からない・・・クロスティーナに聞いてみるか。)


一緒に案内されていたクロスティーナに向き直り聞いてみる。


「すみません、クロスティーナさん。どの様な物を選んでいいか分からないので、少しお聞きしてもよろしいですか?」


「はい、もちろんです。」


「今の私は教会に保護されておりますので、アスタルト教国に所属している様なものだと思いますが、他国で爵位を貰うのは普通の事なのですか?」


少し驚いた様な表情をした後に質問に答えてくれた。


「それは大丈夫です。自国の貴族でありつつ、何らかの功績によって他国でも貴族の地位についている方もいらっしゃいます。名誉みたいなものですね。火乃宮様はオーラスト王国に所属したいのですか?」


先程の驚いた表情に納得しつつ、その言葉を否定する。


「いいえ、そういう事ではないのですが、今後他の国へも同じように訪れるかもしれませんので選択肢を増やせるならそうしておこうと考えたのです。」


「そうなのですね。・・・あなたは教国にとっても重要な方、いえ、この世界にとっての英雄になられる方です。どの国でもあなたは歓迎されますわ。」


「それほど大袈裟な人物になれるとは思わないですが、出来れば私も平和な世界で暮らしたいと考えていますので、善処しましょう。」


謙遜した態度をとっていたら、クロスティーナが近づいてきて両手を取られ胸元に抱え込み、力強く訴えてきた。


「火乃宮様はなくてはならない方であると考えております。どうかそのことは心に留め置きください。」


積極的な行動をしてきたクロスティーナに動揺しながら「ありがとうございます」と答えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


 クロスティーナの助言を受けながら結局、爵位と金銭、書庫への自由な出入りを求めることにした。

テーブルの鈴を鳴らすと直ぐに先程のユリがノックの後に入室してきた。


「お決まりになられましたでしょうか?」


「はい、こちらをお願いします。」


そう言いながら、要望を記入した用紙をメイドのユリに渡した。


「では間もなくご案内致しますので少々お待ちください。」


・・・・・・・・・・・


「火乃宮殿の此度の活躍は誠に見事であった。オーラスト王国ではこの功績にむくいるため、貴殿の望むものを褒美としてとらせる。貴殿の望むものとして、第3位貴族の爵位、金1000万クローナ、更に書庫への自由な出入りを認めるものとする。」


「謹んで拝領はいりょういたします。」


 先ほどメイドに渡した通りの要望が国王から読み上げられるが、第3位貴族はどの程度の立ち位置になるのか確認しなければならない。


「では、3日後に今回の勝利を祝ううたげり行う。火乃宮殿はそれまで王城にて自由に身体を休めるといい。」


「はい、ありがとうございます。」


感謝の言葉を述べながら、空いた時間にどうすべきか考えながら玉座の間をあとにした。


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