第12話 間幕 クラリーネ王女

 クラリーネ王女の私室には二人の人物がいた。一人は部屋の主であるクラリーネが紅茶をすすりながらゆったりと椅子に腰かけていた。もう一人はクロスティーナ達を連れてきたあのメイドがクラリーネの対面に立っていた。


「それで、貴女は彼をどう評価しているのかしら?」


あの食事の際に浮かべていた美しい笑みではなく、あやしい笑みでメイドを見つめた。


「あの能力は非常に魅力的です。それは戦いにおいても、王国の発展においても無尽蔵に物を造り出す事ができるのは他国から見れば脅威でしょう。」


「そうね、知っているだけで武器でも資源でも思うまま。それは軍事や経済においての圧倒的なアドバンテージを意味するわ。」


「左様でございます。王女殿下がこの国を背負っていかれる際に、彼を利用しない手はございません。」


 この二人にとっての火乃宮 蓮とは利用すべき存在以外の何者でもない。この国、ひいてはこの世界においても彼は利用される存在である。彼の能力と知識を知ればすべての国々が自分のふところに入れようと画策かくさくするだろう。

今のところは教会が彼の身柄を保護している為に強硬策やからめ手は難しい。であれば最も簡単に手に入れるには伴侶として招くことだ。


「それで彼はあの愚妹ぐまいの姿は見たのかしら?」


「はい。ちょうど本を見たいとのことでしたので、第2王女様の休息される時間に会わせてあの書庫に案内しております。」


「ではあの愚妹に邪魔されることはないと考えていいかしら。」


「はい。男性は皆スタイルの良い見目美しい女性を好みますので、王女殿下がその美貌と身体で迫れば落とせない男性はいません。」


「ならいいわ。あの愚妹は王家にとってなんの利益にもならない!その癖母親と共に静かに暮らしたいなどと世迷言を!王家に産まれたからにはその責務を・・・」


「王女殿下、落ち着いて下さい。」


「・・・ふぅ。とにかくあの愚妹が彼を利用する為に取り入る事は無さそうなのね。」


「はい。その為に時間を掛けて私が助言した体型と考え方になってもらったのですから。」


 ベルベッティがあの体型になったのは15歳の頃。それ以前の彼女はこの国の宝石と呼ばれるほどの可愛らしさと明るい性格で平民からの人気が高かった。勤勉で将来を有望視されていたが、その状況に業を煮やしていたクラリーネはメイドのユリ・ネーラに相談していた。


ユリはベルベッティに王族として嫁ぐ事に悪印象を植え付け続けた。彼女の母親が側室というのも話に信憑性しんぴょうせいを持たせ、母親と静かに暮らしたいという思いを抱かせるまでになっていた。


 それからベルベッティは人前に出る事を避け、母親と二人で王都から離れて生活するために勉学に明け暮れている。そのなかで彼女はサーバントに関する有用性をまとめてユリに誇らしげに見せていた。

ユリはその考えに手を加えてクラリーネの発案として施行した。

結果はクラリーネの評価が爆発的に上がり、ベルベッティは皆の記憶から薄れていく。だが、これは洗脳されたベルベッティが望んだ結果でもあった。


「では今回の防衛戦が落ち着いた頃を見計らって彼に近付くわ。準備をしておきなさい。」


「かしこまりました。では今日はこれで失礼させていただきます。」


一礼しながら王女の私室を後にしたメイドには禍々まがまがしい笑顔が浮かんでいた。


 クラリーネはそんなメイドの様子など気にもせず自らの輝かしい将来に思いを馳せながら愉悦ゆえつを浮かべていた。

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