第11話 2人の王女
会議を終え部屋を出るとメイドが待ち構えていた。
「クロスティーナ様、火乃宮様お疲れ様でございます。皆様がよろしければクラリーネ王女殿下より夕食をご一緒したいと伝言をお預かりいたしておりますが、いかがでしょうか?」
綺麗なお辞儀をしながらこちらの都合を確認してくるが、もとより断る事は無いだろうという確信めいた雰囲気がメイドから感じられる。
とはいえこの国の上層に位置する人物からの誘いは断らないだろうと考えながらクロスティーナへと視線を向けた。
「まぁ、ありがとうございます。是非ご一緒させていただきます。」
・・・・・
案内された先はなんと王女の私室らしい。室内はフカフカの絨毯が敷き詰められ、置かれている家具は日本であれば高級家具店にありそうなほど光沢があるものだった。部屋の先にはバルコニーがあり王都を一望できる眺めだった。
そしてこの部屋の主である王女が薄い水色のドレスを着飾っていた。先程の謁見ではあまり見ていなかったが、スタイルの良い腰までの長さで濃い茶色の髪はウェーブがかかっておりとても艶がある。水色の大きな瞳に惹きつけられつつ表情を覗けば、まさに物語の王女様と表現できる美貌の持ち主だった。
クロスティーナの話では今年で19歳らしい。才色兼備という言葉を表すような人物で、彼女の提言による政策は王国民に広く支持され人気もあり、王子を抑えて継承権第一位と
「ようこそおいで下さいましたクロスティーナ様、火乃宮様。私はオーラスト王国第一王女クラリーネ・フォン・オーラストと申します。この度は火乃宮様のお話を聞きたくて無理を言いました。どうぞこちらへ、夕食の準備ができるまでお茶の用意が出来ております。」
バルコニーに案内されるとそこには3人分のお茶の用意がされていた。メイドが椅子を引きクラリーネが腰を掛け、次いでクロスティーナ、私の順に座っていく。護衛のカイとルナは私たちの後ろに立っている。
メイドが紅茶を出し、王女の後ろに控えたところでクラリーネ王女が口を開いた。
「今回は我が国のためにありがとうございます。夕食までの時間の間火乃宮様のいらした世界のお話をしてくださいません?」
私の勝手なイメージだが王女は
「ええ、かまいませんよ。そうですね、私のいた世界には魔法はなくーーーーーー。」
・・・・・・・・・
「そうなんですの、随分この世界とは様子が違うのですね。・・・ところで、火乃宮様は元の世界に大切な方はいらっしゃいませんでしたの?」
簡単に私の世界の様子を説明した後にクラリーネ王女がそんなことを聞いてきた。
「家族は居ますがそれほど良好な関係だったとは言えないですね。友人にはもう一度会いたいと思いますが、帰れるか分からないようですから。」
「ふふっ、火乃宮様そうではなくて将来を誓い合っている方ですわ。」
年齢の割に
「もう27でいい年なのですが、今までは仕事が忙しかったのでそういった縁がありませんでした。」
「まぁそうなのですか。ですが大丈夫ですよ、火乃宮様にはきっと良いご縁が待っていますわ。」
王女の言葉を励ましと取るにはその顔に浮かんでいる美しい笑顔に何かある気がしてならない。
その後、夕食の準備が整い3人で世間話をしながら時間を過ごした。
ーーーーー ----- ----- ----- ----- -----
それから2日掛けて予備を含めた2500本の日本刀を作り終え、マクレーン騎士団長に渡すと驚きながらも感謝された。驚くことにこれだけ能力を酷使しても特に体に影響がなかったので、もしかすると無限に作り出せる可能性がある。
少し能力のことが分かったところで魔獣の事を知るための書物が無いか聞くと、メイドの勧めで書庫に案内された。案内された書庫には大量の本が収められていた。人気のない書庫にはゆったりと座れるソファーとテーブルがあり、メイドにお願いして魔獣関係の本を積み上げてもらっている。その数実に100冊を超えている。当然今日中に読めるわけないが、とにかく持って来てほしいと積み上げさせた。その後メイドは用があれば呼び鈴を鳴らして欲しいと言い残して部屋を出て言った。
「さて、始めるか。」
もちろんこれらを全て読むわけではない。スマホを取り出しリーディングさせることで情報を移し、必要になれば∑(シグマ)を使って確認できるようにしておく。
撮影台を作り出しスマホをセッティングし、上から写すようにする。
ページは自分で捲らないといけないが、大体一冊につき3分くらいかかったので全部終えるまで5時間以上はかかりそうだ。
・・・・・・・・・・
作業が半分ほど終わったところで、書庫の奥から扉の開く音が聞こえた。気になって奥を覗いてみると一人の女の子と目が合った。その女の子は目を見開いて驚いており、大きな口を開けながら「えっ、あっ、どうし・・・」と言葉にならない声を発していた。
その子は150cmくらいの身長で綺麗な長い銀髪が目を引く。幼く愛嬌のある可愛い顔立ちをしているが、その体形がすべてを台無しにしていると言ってもよかった。要するに太っているのである。
「あ~、初めましてこんにちは。私は火乃宮 蓮と言いまして、この世界の外から来たものです。お嬢様のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
とりあえず失礼が無いようにしっかり名乗っておく。この書庫にいるというは王国でも高い地位にいるかもしれないので、見慣れなくても不審人物ではないという事を強調をするため転移者であることを伝える。
「えっ、あなたが・・・あのっ、そのっ・・・私はベルベッティなのです。」
(んっ!?ベルベッティって確かカイが言っていたもう一人の王女の名前じゃなかったか!)
「もしかして王女殿下でいらっしゃいますか?」
「はい、・・・一応。」
この返答で踏み込んではいけないなにかがありそうだと分かってしまう。そもそも、栄養の管理等しっかりされていそうな王女がこんな体型になるとは考え難い 。
そんな考えを見透かしているように王女が口を開く。
「・・・私の体型を見て思うところがあると思いますが、これは望んでいた体型なのです。」
この非常にデリケートな内容は女性との話題にしたくないのだが、向こうから振ってくると避けようがないので、なんとか無難に返事をする。
「そうだったのですね。」
「えぇそうなのです!お陰でどこぞの貴族や他国の王族との縁談は無くなったのですから!私は・・・私達はただ静かに暮らしたいだけなのです。」
王族が静かに暮らすのは難しそうだし、彼女の他に誰が居るのだろうという疑問もあるが、変なフラグが立ちそうなので、話題を変える。
「ところでベルベッティ殿下は何をされていたのですか?」
「生きていくためには知識が必要なのです。ですから私はほとんどの時間を勉学に費やしているのです。」
確かに知識は時に力にもなる。だが、王女が言う生きていくために必要な知識は、実践し応用され経験として蓄積していくことが最も効率の良い学び方だ。
王女の言い方ではほとんどこの部屋から出ていないように聞こえる。
「ベルベッティ殿下は外には出られないのですか?」
「ふん、この体型になってから私が公の目に触れることに父上も姉上も良い顔をしないのです。」
クロスティーナがもう一人の王女は体調が悪いと言っていたが、確かに王族としての外聞はあまり良くない。だからこの場所に引きこもるように居たというわけか。
彼女について思案しているとベルベッティ王女が質問を投げ掛けてきた。
「ところで火乃宮殿は何をしているのです?」
「あぁ、この世界の事を私はまだほとんど知りません。ですから今は魔獣について調べております。」
「火乃宮殿はそんなことも知らぬのですか。・・・どうしてもと言うなら私が教えてやっても良いのです!」
「いえいえ、王女殿下にそのようなこと・・・」
断ろうとすると王女の顔は段々と寂しそうな表情になっていった。たしかまだ17歳、幼い彼女が人気の無いところでずっと本を読んでいるのは孤独なのだろう、少し相手をしてあげた方が良いと考え言い直した。
「ですが、王女殿下がご無理でなければお願いしてもよろしいですか?」
「もちろんなのだ!」
そう言った王女の表情は大輪の花を咲かせた様な笑顔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます