第10話 防衛会議

 「王国と教国はあまり仲がよろしくないのですか?」


国王との謁見が終わり、騎士団長との話し合いまで時間が少し空くとのことで、別室にて軽食をつまみながら先程の国王とクロスティーナの話合いの雰囲気を思い浮かべる。


「そんな事は無いのですが、悪魔の侵攻に心痛めている為かもしれませんね。」


クロスティーナの笑顔を浮かべながらの返答に若干の違和感を覚えるが、あまり深く追及するとやぶから蛇が出てきそうなので、こういう詮索は彼女にはするべきでないと心に留めておく。

雰囲気が悪くならないうちに話題を別の物へと変える。


「そうですか。ところで王女様は2人いらっしゃると聞きましたが、あまり公の場には出られない方なのですか?」


「いえ、あの方は・・・体調を悪くされていると聞きます。ですのであの場に立たれることは難しかったのでしょう。」


少し奥歯に物が挟まったような言い方だったが、ここにもまた事情がありそうなので再度話題を変えようとすると、後ろからカイが口を開いた。


「えっ、もう一人の王女様のベルベッティ・・様って確か人目を気にして引き籠っ・・うごっ!」

「人のプライベートを勝手に話すのは聖騎士のする事ではないぞ。」


もやはお決まりとなっているルナの突っ込みで言葉を詰まらせ床にうずくまったカイを横目に見ながら今度こそ話題を変える。


「あ~、ところで教国では今回の防衛にはどのように対応されるおつもりですか?」


「具体的には後ほどお伝えいたしますが、可能な限り聖騎士を動員し包囲・殲滅を考えております。火乃宮様におかれては国王様にもお伝えした通りルナ達に作られた武器を可能な限り大量に作っていただきたいと考えております。」


「分かりました。出来る限りのことは致します。」


タイミングの良いところでノックがされる。扉を開けると迎えの騎士なのだろう会議室に案内するとのことだった。


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 会議室に入ると広い部屋に20人は座れる大きな円卓が置いてあり、騎士団のお偉方なのか8人が立ち上がり私たちを迎えた。そして、その中央にいるマクレーン騎士団長が席を勧め全員が着席することで防衛会議が始まった。


 「まずは皆忙しい中集まってくれたことに感謝する。時間も限られているので早速オーラスト王国とアスタルト教国の防衛計画の擦り合わせを行っていく。ここにいるのは我が騎士団8つの団の団長が集まっている。皆良い案があれば発言していってくれ。」


 会議は王国側が掴んでいる情報の確認から始まった。まず予想主戦場は王国の王都から北へ300キロ程離れた大森林になりそうだということだった。その森林周辺では斥候の騎士が今まで居なかった様々な魔獣の種族が群れをなしており、数にして二千ほどを確認していた。

そして大森林近くのゼスト辺境領に被害が増え始めているとのことだった。相対した騎士の話ではその群れは統率されており、襲撃から騎士の援軍が現れた際の撤退が早すぎていたため一方的に損害を受けてしまったらしい。


 また、幾人かの女性が食べられるのではなくさらわれていた事から悪魔に操られた魔獣と断定されたとのことだった。


「無知で申し訳ない。何故攫われたことが悪魔と断定できる要素なんですか?」

すると面識があり、私の事情をあの場で聞いていたからだろうマクレーンから説明された。


「本来魔獣が人を襲うのは食料として見ているからだ。だからその場で止めを刺して巣に持ち帰ったりするのだが、悪魔に操られている魔獣の長は繁殖を目的として女性を攫わせている事が確認されている。」


「えっ!魔獣と人が子をなす事なんてできるのですか?」


私の世界の常識で考えればありない話だ。遺伝子的にかけ離れている生物での繁殖はあり得ない。


「なぜかは分かっていないが、悪魔に操られている魔獣に犯されるとその魔獣の子を孕むのだ。しかもやつらの繁殖力は凄まじく、おそわれればほぼ100%子を孕む。」


「どんな子供が生まれてくるのですか?」


獣人じゅうじんという獣に近い容姿をした化け物だ。奴らは人語を解すが、人々が神から授かる魔法を持たない。しかし身体能力は魔獣並で厄介なのは知能がありながら奴らは簡単に悪魔に操られるという点にある。」


獣人の話を聞くと悪魔の目的は獣人を大量に準備して一気に操ることで自分の戦力にする為か、他に目的があるのかもしれない。


「獣人に対してはどう対応しているのですか?」


「細かく言えば各国で対応は違いますが、見つければ保護して精神操作阻害の首輪を着けることで、人の脅威にならないようにしております。」


隣に座っているクロスティーナが説明した。


「では普通の人達と同じ様に暮らしているのですか?」


「そうですね、ただ人々からすれば異形に映ってしまうものですから、全く同じ様にはできません。」


前に座っている騎士団の方もそれに同意を示しながら話す。


「そうだ。我が国でも奴らが絶対に人を害さない保証は無いからな。故に奴らはサーバントと言う職業に就けさせている。」


(サーバント・・・奉仕者か。それはもしかして・・・)


「今はそんな事より先に議論すべきことがあろう!」


騎士団の人の中でも老齢な人物が声を荒げた。


「情報によれば確認された魔獣はゴブリンやオークだけでない、オーガやトロールまで確認されておる。獣人のことなぞ話しておる時間などない!」


その声に賛同するように、会議は具体的な作戦立案へと移っていった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 2時間程して大体の具体案が纏まってきた。王国は8つの騎士団の内3つの騎士団を投入し、大森林入り口付近の平原に第一騎士団、そこから3キロ程度の大森林表層に位置する魔獣の所在へ左右に分かれて第3騎士団、第7騎士団が展開していく。左右の騎士団は進軍しながら戦線を伸ばし魔獣の群れを挟み撃つ様な形に取り囲んでいく。そして斥候を得意とする騎士が第3位の土魔法が込められた魔石を使い簡易の壁を作りその背後より火魔法と風魔法による合成魔法を魔獣の群れに先制飽和砲撃、敵の戦力を削ったのち大森林表層から追い立てる形で平原へと誘い込み、そこに待機している第一騎士団と挟み込む様に魔獣を倒していくというものだ。

これは森林での戦闘は人間側が圧倒的に不利になってしまう為である。


 また、教国の聖騎士たちは光魔法が得意なものが多いので、負傷した者の回復がメインで各騎士団に均等に配属され、攻撃力の高い火や風の魔法が得意なものは前線に配置されるということだった。


 話の途中で魔石を使えば回復や火の魔法など使えなくてもどんな役割でも出来るのではないかと確認してみたところ、魔石に込められた威力は普通に魔法を使用した威力の6割程度しかない為、直接魔法を使った方が効率が良いとのことだった。更に、高い魔石をそんなにポンポン使えるかと怒鳴られてしまった。

どうやら第3位以上の戦闘に使える様な魔石は結構なお値段がするらしい。戦いに勝っても財政が破綻してしまっては意味がないのは企業と一緒だなと思ってしまった。


「最後に火乃宮殿の武器なのだがどのくらいの量産が可能のなのかね?」


マクレーン騎士団長が値踏みするような眼をしてこちらに視線を向けてきた。すると自然に部屋中の視線を集めてしまったようだ。


「試したことはありませんが・・・ちょっと待ってください。」


そう言うと円卓から離れ部屋の隅へと向かい能力を使ってみる。

・・・一度に日本刀を3つ以上作ろうと思うと上手くイメージが固まらなかったので、一度に2つが今の限界らしい。かかる時間は30秒ほどなので、この能力に何か制限が無ければ1時間で240本作ることができる。

10本ほど作ったところで能力を止めてこちらを見守っていた面々に向き直る。


「この能力に制限があれば分かりませんが、恐らく1時間に200本ほど作れると思います。」


「ほぅ、そんなに作れるのかね。・・・では5日後を作戦開始日としたい。5日後までに2300本ほど頼めるかね?」


それは今回の作戦において前線に立つ人数と同じ数だった。


「分かりました。ただ、作っている際に能力に制限があった場合はすぐお知らせしますので、その際にはご容赦願います。」


「分かっている。火乃宮殿はこの世界に来てまだ5日、能力の確認も満足にできていないのは承知している。その際は速やかに報告してくれ。・・・では4日後に王都を出発しゼスト辺境領へと向かう。夕刻には着くだろうからその後装備や備品の確認と準備を行い翌朝大森林へ向かう。それまで各自準備を怠ることのないようにしろ、よいな!」


マクレーン騎士団長の鶴の一声でこの防衛会議は解散となった。あとは時間までやれることをやるだけだ。


(武器の作成は2日あれば可能だな。あと1日を魔獣の情報を集めるために動くことにしよう。)

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