第9話 国王との謁見

 「よくぞ参られた、余がオーラスト王国国王ドルティエ・フォン・ウル・オーラストである。」


 荘厳そうげんな雰囲気の玉座の間にて私たちはこのオーラスト王国の国王と謁見している。今日の朝方に王国の王都エストヒルへと到着し、先触れを出すと驚くことにその日の昼には時間が作れるとのことだった。


歓迎されているとみるか、それほどに悪魔の侵攻が危機的状況にあるとみるか、様々なことを考えながら国王と相対した。

 

玉座には国王が座しており、その右側に王妃だろう女性と左側に王女と王子が並んでいた。クロスティーナの話ではもう一人王女がいたはずだが、この場には姿が見えない。

そして国王と対面している私たちの右側には文官系の、左側には武官系の要職に就いているだろう人達が並んでいた。


「ご無沙汰しております陛下。私はこちらにいる異世界からお越し頂いた火乃宮様の従者として今回同行いたしております。」


クロスティーナが前に進み出て挨拶をし、私に振り返りながら目配せをしてきた。


「初めましてドルティエ・フォン・ウル・オーラスト国王陛下、私は火乃宮 蓮と申します。」


深くお辞儀をするが、臣下の礼の様に膝を着くことなく名乗る。国王や周りの家臣達からは何となく苛立ちに似た雰囲気が感じられるが、正直今回の来訪は救援の性質があるので立場上はへりくだる必要性を感じなかったのだ。


「火乃宮殿は旅の疲れもあろう、さっそく本題に入りたいが問題ないかね聖女殿?」


「そうですね、私もお互いのお腹の探り合いは不得手ですのでありがたいです。ではまず現状をお聞かせ願えませんか?」


「よかろう、では騎士団長より説明させよう。」


そう言いながら国王は家臣達が並んでいる中のある人物に視線を投げ掛けた。


「はっ、騎士団長のマクレーン・キーエンスと申します。僭越ながら私から現在の悪魔の侵攻についてご説明致します。」


騎士団長と名乗った歴戦の猛者を感じさせる壮年の男性が進み出て説明を始めた。


「悪魔に操られた魔獣達との戦いは散発的にあったのですが、その戦いに変化が見られたのは3ヶ月程前からになります・・・」


 この騎士団長が言うにはもともと悪魔に操られた魔獣の軍勢は千匹程の色々な種族の魔獣達が攻めてきていたのが、各種族ごとにまとまってそれぞれの役割を果たすような組織だった侵攻をしてきたのだという。

さらに規模も複数箇所による侵攻となってきているため、王国としてもなんとか持ち堪えているというのが現状らしい。


「まだ持ちこたえてはおりますが騎士達の損害はかなりにものです。」


「そうですか、やはり書物にある通りあの予兆なのかもしれませんね。」


この事態を知っていそうな発言をしたクロスティーナにどういうことかと尋ねてみる。


「教会では何が起こっているか分かっているのですか?」


「各国に残されている書物を調べたところ、今までの悪魔の動きからそういった組織的な侵攻がなされる時には悪魔の力がかなり高まっているらしいんです。・・おそらく受肉の時は近いですね。」


なんとなくラストスパートという言葉が頭をよぎった。事前に聞いた悪魔の情報では魔獣を使役するにもある程度の力が必要だったということだったので、力が集まったことで侵攻を広域に分散させ、より効率的に力を集めているのではないだろうか。


「はい王国としてもそのように見ております。そこで1日でも早く悪魔を討伐する、ないしは弱体化させることが必要です。」


騎士団長やクロスティーナの話から推察するにあまり残されている時間は多くなさそうだった。

ただ、悪魔の能力と今までの侵攻などから一つ疑問に思っていたことがあったので聞いてみた。


「基本的なことを確認したいのですが、何故悪魔は人間を操って争わせないのですか?」


一番簡単なのは国の中枢に位置する人物を操り他国に戦争を仕掛け、多くの戦死者を出せば憎悪に塗れた魂の回収が容易く行えるはずだ。


「それは、知能が高いものほど操るのに必要な力が多くなるかららしいのです。国の中枢の人物を丸ごと操るにはそれこそ膨大な力が必要となるでしょう。そして、戦いの命令を下しても実際に戦う者達は実行するのは難しいでしょう。何故なら世界協定によって他国への侵略をした国に対して、残りの国々は協力の元にその国の脅威を排し、今後永久に経済的にも人的にも有事の際にも対応を閉ざす事になっているのです。」


クロスティーナの説明によると、戦いを仕掛けた瞬間に1国対4国の戦争になる。当然勝てる可能性はほぼ無いだろう。更に一種の鎖国状態に強制的にされるということだ。この世界の貿易や食糧事情はよく分からないが、それが抑止力になるのならお互いの国々が支えあっているのだろう。

もし現代日本でそんな状態になれば、経済は崩壊し食料自給率から考えれば数万人単位での餓死者がでる。


「なるほど、つまり国のトップがそんな指示を出せばその者は操られているということですね。」


「おっしゃる通りです。ですので悪魔にとって使う力の割にはリターンが見合わないということです。それに今では精神操作を妨害する魔具まぐも開発されています。」


だから魔獣を操るということか。何となく悪魔の行動原理が分かったところで、こちらの様子を見ていた国王が口を開いた。


「ふむ、悪魔に関して知らぬことが多そうだな。火乃宮殿と言ったな、お主は悪魔に対して何ができるのだ?」


「私は・・・」

答えようとした気勢を制し、クロスティーナが話し出す。


「彼の能力は知識を物質として作り出すことです。彼の元居た世界の武器を作り出すことで、悪魔への対抗戦力になります。」


「それはこの世界の理から離れた武器であるということかね?」


「はい、カイ!」


クロスティーナは後ろにいる護衛のカイに目配せをする。するとカイが後ろから進み出て、私の渡した日本刀を横に持ち騎士団長に渡した。刀を手に取った騎士団長は鞘から刀身をだし、しばらく見つめた後白い魔石をその刃に押し当てた。


「どうだ騎士団長?」


「これは・・・アダマンタイトやミスリルの剣には及びませんが、それに次ぐ力を持っております。あれらの剣は材料は希少ですし、鍛冶師も限られた者しか扱えません。もしこの剣がいくつも作り出せるとすれば飛躍的に戦力が上がります。」


国王と騎士団長の話を聞きながらこの世界には架空の鉱物だったアダマンタイトやミスリルがあるのだと感心していた。


「ほう。して火乃宮殿自身はどうなのだ?先の召喚された者は剣の達人だったと聞くが。」


「火乃宮様には前線に立って戦うよりも後方支援向きでしょう。何より召喚されてまだ5日です。自らの置かれた状況や能力を確認するにはあまりにも時間がありませんでした。しかし、王国の要請に迅速に駆けつけたことは理解していただきたいものです。」


「ふん。我が国が倒れることがあればそれは悪魔の力がより増すか、受肉する結果となろう。それは世界の破滅を意味することは分かっておるだろう。」


「ええ、ですので予定を繰り上げて馳せ参じました。また、王国に駐在しております聖騎士の動員の許可も得ております。」


「当然だ!世界の危機なのだからな。では具体的な防衛計画はマクレーン団長と話し合ってくれたまえ。」


そういうと国王は席を立ち、それに続くように王妃や子供達も部屋を後にした。

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