第8話 オーラスト王国へ

 オーラスト王国へ向かう当日となり、朝食後に護衛を務める2人の聖騎士が訪れた。2人とも顔合わせの時の動きやすい服装ではなく、白い鎧に身を包み胸元には教会のシンボルマークが刻まれまさに聖騎士然とした姿だった。女性の聖騎士ルナが一歩進み出てきて私に確認してきた。


「火乃宮様そろそろ出立しゅったつのお時間です。準備はお済でしょうか?」


 昨日のうちにクロスティーナにどのような格好で王国へ行くべきか確認したところ、初日に用意されていた司祭のような服装を提案されたが、動きにくく教会の一員のようになることに忌避観があったのでスーツを打診した。しかし出来れば教会を表す白い服装が良いとされたため、創造の能力で白のスーツと銀色を基調としたネクタイを作り出し許可をもらっていた。

ただし、鏡で自分の姿を確認した時にホストのような印象になってしまったが、この世界にホストなど存在しないので思い切ってこの格好に決めたのだった。それにこのスーツの生地には防刃素材としてアラミド繊維を編込むイメージをしており、防御力の面で言えば問題はない。


「では行きましょうか。今日から護衛よろしくお願いします。」


 教会の外に出ると発着所のような広場に案内され、そこで地球の飛行船と飛行機の翼を足したような形をした乗り物があった。10人ほど搭乗できるらしいそれは大きさは大型トラック2台程あり、聞くところによると最近開発された飛空艇ひくうていと言うらしく、火と風の魔石を燃料に時速50キロから最大100キロで運行可能と言っていた。

飛空艇に近づくと搭乗口のタラップのような場所の隣にクロスティーナが微笑みながら待っていた。


「おはようございます火乃宮様。これから約1日かけての移動でご迷惑をかけますが、なにとぞご容赦ください。」


「おはようございますクロスティーナさん。こちらこそよろしくお願いします。」


挨拶を交わすと彼女は後ろの護衛に視線を向け真剣な面持ちで話し掛けた。


「あなたたちも油断のないようにお願いしますね。」


『はっ!お任せください!』


2人とも右手を胸に当てて返答する。食堂で顔合わせしたときのような雰囲気と、護衛中の雰囲気はまるで違い、職業意識が高いのだろう安心できる印象を受けた。



 飛空挺の内装は部屋のようになっており、広いリビングのような場所にソファーでゆったりとしながら旅ができる優れものだった。しかも寝る際は多少狭いが、個室のベッドでぐっすり眠れるとのことで、まさに至れり尽くせりだ。


「では火乃宮様、しばらくおくつろぎください。」


そう言い残すとクロスティーナは自分の個室へ去っていった。


「最近はティーナ姉ちゃん忙しそうだったから、少し横になりたいって言ってたなぁ。上の人は大変だね~。」


しみじみと言っているのはチャラ兄ちゃんのカイ君だ。その隣ではルナさんが心配そうにクロスティーナさんを見送っていた。

そんな二人の姿にただの上司と部下の関係ではないと感じ質問してみた。


「お二人はクロスティーナさんと親しいのですか?」


「そうですね、私たちは元々アスタルト教会の運営する孤児院にいたのですが、そこで一緒に育ったんですよ。」


「ああ、姉ちゃんにはよく怒られて頭が上がらなかったなぁ。」


「あんたは今もよく怒られてるでしょ!そもそも怒られることするあんたが悪い!」


きっと良い想い出があるのだろう、二人の表情が穏やかなものになった。


「お二人の表情を見ると分かります、とても信頼しているのですね。」


「そうですね。お姉様は多少思い込みが激しく一人で抱え込む癖があるのが心配ですが、私はあの人の力になりたいと騎士になったのですから。」


「へぇー、ルナってそんな思いで騎士団に入ったんだ。」


「ふん、お前だってお姉様と離れたくないと騎士になったくせに!」


「おおぃ、誰もそんなこと言ってねーだろ!」


「バカめ、お前の態度でまるわかりだぞ。」


「お二人は仲が良いんですね。」


『良くねーよ!』

『良くないわよ!』


微笑ましげなやり取りについ突っ込んでしまったが、息の合った返しが二人から返ってきた。


「私とこいつはただの幼馴染で腐れ縁なだけよ!」

「そうそう!だからその生暖かい目を止めろ!」


あまりからかうと収拾がつかなくなりそうだったので、この辺りでこの話題をやめることにした。


「すみません。ところでお二人にお聞きしたいのですが、お二人はどのようなスタイルで戦闘されるのですか?」


「そうだなぁ、俺は火魔法と剣術を組み合わせた双炎流そうえんりゅうっていう流派なんだ。」


「私は風魔法と剣術を組み合わせた双風流そうふうりゅうという流派です。」


「純粋な魔法だけで戦われる方はいないのですか?」


自分の世界の知識での偏見だが、 派手な魔法が飛び交う戦場をイメージしていたので聞いてみた。


「ほとんどいないわね。そもそも第2位魔法以上の使い手でなければ魔法だけで戦うのは無理よ。」


「そうなんですね。では魔法技術だけではなく武器の性能も大事ですね。」


「もちろんそれが全てではないけれども、確かにそうね。」


ルナさんの返答を聞いて、例の日本刀がこの世界の戦いにどの程度の影響を与えるのか確認してみたくなったので2人に提案してみた。


「もしお二人が良ければ私の作った武器を使用してみませんか?」


「えっ、火乃宮・・様って鍛冶職人なわけ?」


「いえ、私の能力を使って作ることができるんですよ。ご存じないですか?」


「いや、俺らには護衛としか知らされてないから細かいことは聞かされてないんだよ。」


これだけ聞くと情報共有がなされていないのは組織としてどうなんだと思うところが無い訳ではない。なんとなく大企業の末端は単なる使い捨てという考えが浮かんでしまう。


「今使用している武器を見せてもらっても?」


 差し出された武器はいわゆる西洋剣といわれるバスターソードだった。西洋剣は鋳造ちゅうぞうして作られるもので、切るよりは叩く、叩くよりは突く事に特化している武器なので、彼らの戦闘スタイルもそれに準じたものとの予想がついた。


「無理して使わなくても結構ですのでまずは見てみて下さい。」


そう言うと、日本刀の技法と昔美術館でみたあの直刃のデザインを思い浮かべて2振りの日本刀を作り出す。


「これは日本刀という武器です。突く事も可能ですが、この刀の極意は切り裂く事です。」


「・・・見たことのない形状の剣・・・日本刀というのですね。切り裂くとはどのように使うのですか?」


興味があるのか、ルナさんが刀を手に取り尋ねてきた。


「私もそこまで詳しいわけではないんですが、体重を刃に乗せることで切断力が上がるらしいです。体重移動が肝で、こぅ・・・平行四辺形が潰れるようなイメージなんですが。」


「ふむ、ぜひ試してみたいな。お借りしてかまわないだろうか?」


「お2人に差し上げますよ。試したら是非感想を聞かせてください。」


「マジで!悪いなっ・・うごっ」


「お前はいつになったら言葉遣いが治るんだっ!すみません火乃宮様、カイには後で言い聞かせますので。ありがたく使わせていただきます。」


「そんなに気を使わなくても、私の命を預ける方々ですので呼び方もれん

で構いませんよ。」


「おっ、ありがとな!よろしく頼むぜレン!」


「まったくお前は・・・よろしくお願いします蓮様。」


その後世間話や食事をしつつ時間は流れ、翌朝にはオーラスト王国へと到着する。

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