第4話 転移者 火乃宮 蓮(後編)
入浴してさっぱりした後に用意されていた衣服は純白の生地に金の刺繍の入った神父然とした物だった。刺繍の模様はおそらくはこの教会のシンボルなのか、建物内で見たマークと同じものだった。その後朝食へと食堂に案内されると100人は一斉に食事ができるほどの大きさの場所で、30名ほどの修道士のような人々が食事をしていた。聞けば、そもそも教会の関係者は各国の教会で布教を行っており、本部には普段それほど人はいないとのことだった。
食事が終わり少しの後教皇が待つという礼拝堂へ向かうと、3メートルはあろうかという荘厳な扉が廊下の先に見えてきた。
「では火乃宮様これより教皇様と接見となります。教皇様より言葉遣いなどは気にせずに接して欲しいとのことでしたのでご心配なさらぬように。」
クロスティーナは私に向き直り教皇からの伝言なのだろう、伝えてきた。一拍置いたのち、大きな扉をその重さを感じさせないような滑らかな動きで開いていく。そして・・・
「ようこそおいでくださいました火乃宮様、私はアスタルト教にて教皇を務めておりますグリエル・バーランド・クロークと申します。まずは謝罪を、火乃宮様の事情を考慮せずに私共の世界に召喚してしまったこと、誠に申し訳ありません。」
広々とした礼拝堂には教皇しかおらず、後方には3メートルはありそうな大きな女神像のようなものがある。更に背後には純白のガラスのようなものが壁一面を覆っており日の光を柔らかく室内に取り込んでいることで一種の神々しい雰囲気を醸し出していた。そしてわざわざ礼拝堂で教皇との話をするということは、教会の権力を背景にこちらを威圧したいという思惑もあるのだろう。相対するのは教皇だけでなくアスタルト教会という組織なのだと。
「
そういいつつも現時点では選択肢がないのはすでに分かっている。こう言っているのは選択肢を新たに作り出せないか試しているためだ。そもそもここは地球ではない、私の知らない異世界のため生活基盤もない。ということは彼らを頼らなければ生きてい可能性が極めて高いのだ。
「そうでございましたな、ではこの世界があなたに求めていることをご説明させていただきます。」
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教皇はまずこの世界の危機から話をした。曰く、この世界には悪魔という存在が昔から存在しているとのことだった。悪魔の目的は人の魂と言われており、特に絶望のうちに死した負の感情の濃い魂が悪魔のエネルギーとなっているとのことだ。
しかし悪魔は精神生命体と呼ばれるもので、人間に対して肉体的な接触はできず、直接的に殺すことができるわけではない。その為知的な生物に憑依し人々を殺すのだという。悪魔の目的は膨大なエネルギーをもとに受肉し、世界を手中に収めることと言われているらしい。
過去に悪魔を倒すべく戦ったが人々には全く有効な手段が無かったという。当時の教会が救いを求め異世界から力のあるものを召還することで抵抗した記録が残されていたということだった。
そして現在また悪魔による虐殺が規模を増してきているため救いを求め私を召還したということだった。
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「火乃宮様にとっては勝手な話になりますが、我らは希望に
私を召還した目的を話し終えた教皇はそう言って話を締めくくり頭を下げてきた。
「頭を上げてください。3つ聞きたいことがあるのですがよろしいいですか?」
「ええ、もちろんでございます。」
頭を上げた教皇が私の目を見つめながら答えた。その眼には私の真意を確かめようとする鋭い光が宿っていた。
「まず1つ、規模が増してきたということでしたが、悪魔は何体いるのですか?」
「一体でございます。悪魔は自らの分身体を用い色々な場所に出現し多くの魔獣を率いて虐殺を行うのです。」
「では2つ目は今までの召喚者たちは悪魔を倒せなかったのですか?」
「はい、実はかの悪魔はこの世界の理の外の存在なのです。そのためこの世界の
「では今までの召喚者たちはこの世界に近い存在だったと?」
「ええ、書物では5人目の召喚者までは魔法と剣で悪魔に挑み撃退するのがやっとであったとされていますが、6人目の方は魔法は使えなかったのですが、
「では最後に私へ求めることについて聞かせていただけますか?」
教皇の視線が僅かに後方へと向き、鋭い眼光を宿して私を直視してきた。
「これまでの話から火乃宮様であればご理解されていると思いますが、悪魔を滅ぼしていただきたいというのが我らの求めるところなのです。」
「確かに私は魔法のない世界から召喚されましたので、あなた方の言うこの世界の
すると教皇は笑顔を浮かべながらこちらに近づき、懐から純白のビー玉のような形をした物を取り出し、私に差し出してきた。
「これは自身の状態を確認するための第五位光魔法を魔石に込めたものです。砕くことでその魔法が発動し自らの能力等や状態を確認できるのです。召喚された方は以前の世界の理を能力に反映できるといわれています。先の方は剣によってその身を立てていたようなのですが、こちらの世界ではその力が【剣神】という能力になったとのことです。」
(・・・そんなことが可能であれば情報を晒すのは悪手だな。とはいえ彼らの目的は私の能力を確認し、悪魔の対抗戦力となり得るか知りたいのだから、この場で拒否は不可能だろう。であれば私の情報が周囲に見える形で表示されないよう祈るしかないな。)
一瞬の逡巡の後その純白の魔石を指先で砕いた。すると頭の中に文字が浮かんでくる。
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名 前:
レベル:26 体力:7800 魔力:-----
スキル:知識創造(限定開放)
称 号:統治者 開発者 死を運ぶ者 異世界の理を持つ者
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(この知識創造というのがこの世界に来て具現化した能力か。しかし称号の死を運ぶ者は外聞が悪いな、これは相手からは見えているのかいないのか・・・)
そんなことを考えていると教皇が話し掛けてきた。
「いかがですかな、ご自身の能力は確認いただけましたでしょうか?」
「ええ、名前とレベル、スキルと称号が表示されていますね。お伝えしたほうが・・・?」
「そうですな、私どもも把握したほうが火乃宮様の力となりますので。」
穿った見方だがこのような返答をされると使えない能力の場合は相応の対応になりそうであるし、この表示が実は相手からも見えていてこちらを試しているのではと考えてしまう。
「レベルは26、体力が7800、魔力の表示はないですね。あとスキルに知識創造となっています。称号は異世界の
自分の有能性と、知られても問題ない部分を伝えて様子をうかがう。
「魔力の表示がないのは火乃宮様の世界では先の方同様魔法のない世界だったのでしょう。しかし、知識創造というスキルは
こちらを値踏みするような、いや実際に値踏みをしているのだろう。
「わかりました、やってみましょう。」
(といってもやり方が分からないな。名前の語感から自分の知識を作り出すことができるのか。例えば・・・ナイフが作れないかな・・・)
しばらくすると頭の中にナイフの形状が浮かんできた。 しかし全体的にぼやっとしたイメージになっておりこのままではいけないような気がした。そこでよりイメージを鮮明にするためにナイフのハンドル部分をカーボンファイバーの素材をイメージし、刃の部分はステンレス製の包丁のような刃をイメージした。 すると頭に浮かんでいたイメージがより鮮明になっていき、意識を集中していると目の前にフッとナイフが現れそれを手に収める。
「おお、素晴らしい!!何もないところから物質を作り出すなど信じられません!!」
興奮した様子の教皇が話し掛けてきた。
「これはナイフですかな?なかなかの切れ味のように見受けられますが触ってみてもよろしでしょうか?」
(やはり武器を作れることを見せるのは正解だったな。)
「もちろんです、どうぞ。」
刃物側を持ち、グリップのほうを差し出しながら渡す。するとナイフを手にし懐からまた純白の魔石を取り出し刃先で砕いた。
「素晴らしい。鍛冶師が作った物に匹敵するレベルのナイフがあっという間に・・・。しかもこれはこの世界の理の能力ではない。これで悪魔にダメージを与えられれば消滅させることも可能やもしれません!」
魔石を砕いた際にその表示が見えなかったので、他者からは見ることができないのだろう。
「それは良かった、良ければそのナイフはお納めください。それでこれからのことなのですが。」
「おお、ありがとうございます。そうですな、もし火乃宮様が我らの救いとなっていただけるのであれば、悪魔の侵攻が活発になりつつあるオーラスト王国へ共に向かっていただきたいのです。いかがでしょうか?」
「もとよりこちらに否ということはありません。協力いたしますよ。」
ここで拒否などできない。拒否などすればその瞬間後ろにいるクロスティーナが私を取り押さえ、首輪でもつけ幽閉し武器を強制的に生み出させられる未来しか想像できない。
「ありがとうございます。そこでもう一つ、アスタルト教会の名において異世界より救世主が現れたと大々的に発表したいのですが、お許しいただけますか?」
(教会という名の首輪をつけるわけか。物理的なものでないのが救いだな。)
「ええもちろんです。存分に士気高揚に使ってください。」
皮肉な言い回しに教皇は笑みを崩すことなく頭を下げる。
「では準備がございますので2日後に出発となります。王国へは約1日で到着いたしますので良ければそれまで書物のほうを見られますかな?」
「ありがとうございます。そうさせてもらいますね。」
顔を上げた教皇が後ろにいるクロスティーナに目配せをする。
「では火乃宮様お部屋へご案内いたしますわ。」
「ありがとうございます。」
少しの逡巡を見せた彼女は微笑みながら言ってきた。そしてまた私を部屋へ案内するため先導する。
(さてこの2日でこれから先の生き方が決まるな・・・)
そんな思いを胸に彼女の後姿を眺めながら後をついていく。
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