第10話 結局京都

『で・・・坂本さん。

 宮津って、天橋立のある。

 あの宮津市ですか。』

宮津湾産ならば、2回目の確認となる。

以前に、実績がある以上、ないとは言えないのが、自然界である。

水田七奈美の取り巻きには、宮津市出身者が4人もいる。

『その中に、犯人がいると

 まで言いきれへんな。

 まだ、可能性があるだけや

 からなぁ。』

勘太郎は、元気がない。

『けど、宮津やったら近いし

 うちの管轄やし・・・

 どこにも遠慮いらん・・・

 なんぼでも捜査できる。』

本間は、一歩前進と楽観的だ。

そう宮津市は、京都府宮津市なので、京都府警察本部の管轄である。

京都市内から、京都縦貫高速道路であれば、2時間程度の距離である。

漁業の盛んな若狭湾の漁港を中心に出来た町である。

したがって、4人の中に水産業関係者と懇意にしている者がいても、おかしくない。

水田晋作衆議院議員の本拠地、舞鶴市とは隣接しているので、水田の選挙地と言っても、過言ではない。

したがって、水田議員と面識のある人物もいるかもしれない。

その夜、祇園の乙女座の奥の席で、勘太郎は1人飲んでいた。

チビリチビリと、お猪口を傾けて。

22時を、少し回った頃、かなり酔っ払った客が来店した。

勘太郎が座っている席の近くの席に座ったのだが、酔っぱらっているせいか、声が大きい。

勘太郎は苦笑しながら、何とはなしに聞いてみることにした。

その酔っぱらい客には、見覚えがあった。

水田七奈美のたこ焼きパーティー参加者の一人、柴原巧である。

『今年は、あかん。

 カニの上がりがようない。

 冬場に、カニの水揚げが少

 ないと痛いねん。』

等と豪語している。

『柴原さんって、漁師さんな

 んですか・・・

 カッコえぇですよね。』

担当に着いた女の子が、上手く聞き出してくれている。

女の子は、茜。

柴原のお気に入りのようだ。

お気に入りの茜にカッコえぇと言われて悪い気分のわけはない。

ましてや、柴原のように軽い性格の人間には、効果がある。

翌朝、勘太郎は何気なしに水田議員事務所の来訪者手帳を見ていてスットンキョウな声を上げた。

『警部補・・・

 見て下さい。

 水田七奈美のたこ焼きパー

 ティーの写真に写っている

 この男。

 柴原巧といいます。

 元々は、宮津漁港の漁師で

 すねんけど、水田議員事務

 所の芳名記録にも、名前が

 ありますねん。

 偶然にしても、いろいろ合

 致し過ぎですよね。』

木田は、あまりに一致し過ぎることが気持ち悪いと言い出した。

手掛かりなどというものは、ほんの少しの、指先がかかる程度のものから突き詰めていく。

『最初から、そんなグーで握

 れるような奴は。』

もちろん、それで犯人なら、楽でいいとは思うのだが。

そんなに、甘くないというのが木田と勘太郎の一致した考え方。

しかし、探せば探すほどに、どんどん大きくなっていく疑惑。

証拠品で、柴原が出て来ないのは、貴船神社の藁人形から出た5寸釘の指紋だけ。

たこ焼き屋での、アルバイト経験まである。

『けど、たこ焼き屋でアルバ

 イトしてたんやったら。

 鉄板の扱い方ぐらい、知ら

 んわけないと思います。』

勘太郎は、疑問点が消えないと不安があった。

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