第8話 足掛かり

翌日、捜査会議室。

木田が、淡路から得た情報を、得意げにひけらかしている。

『というわけで、犯人は、鉄

 板の扱いに詳しくない、仲

 良しの漁師がいて、水田七

 奈美に殺害動機がある奴と

 いうことや。

 勘太郎・・・

 他の意見は・・・。』

勘太郎は、ほとんど言うことがない状態で振られてしまった。

『ヒョウモンダコの入手方法

 ですけど、かなり小さい個

 体やったら、観賞用として

 熱帯魚屋とかアクアリウム

 用の通販でも、買えなくは

 ないです。

 が、淡路屋さんによると、

 ヒョウモンダコは、唾液が

 テトロドトキシンやから、

 噛まれたら死ぬ危険性があ

 ることぐらい、犯人やった

 ら調べているはずやて言わ

 はります。

 熱帯魚屋で、小さいの買っ

 て育てるいうことは、可能

 ですけど。

 殺人の凶器にするために、

 そんなに悠長で危険なこと

 するかいなと考えると

 ねぇ。』

みんな苦笑している。

たしかに、現実的とは言い難い。

『とりあえずは、水田七奈美

 さんの周辺で、漁師又はダ

 イバーを探してみます。』

勘太郎の頭には、無茶苦茶悲しい可能性が浮かんでいる。

会議が終わって、午後一番の本間の前に、勘太郎。

『なんやて、東京て何しに行く

 ねん。』

勘太郎が、いきなり東京の水田晋作に会いに行くと言い出した。

『そらな、娘さん殺した犯人

 探しのためやさかいに、協

 力はしてくれはるとは思う

 けどなぁ。

 いきなり行っても・・・。

 相手は、大臣まで勤めた大

 物の国会議員さんや。

 そんな簡単には。』

本来なら、一介の平刑事が会える相手ではない。

だが勘太郎には、目論見があった。

本間の机の電話が鳴った。

『ハっ・・・

 刑事局長・・・

 お疲れ様です。

 ハっ・・・

 勘太郎・・・

 目の前におります。

 ハっ・・・

 水田議員とアポが取れた。

 了解しました。』

電話を置いて、本間はため息をついた。

『なるほど、その手があっ

 たか。』

普通の刑事では、あり得ない方法だが、極めてスピーディーで確実な方法。

警察庁刑事局長真鍋勘壱から、水田の娘の殺人事件の件でと協力を頼んでもらったのだ。

『俺も行くわ。

 警察庁にもえぇ顔せなあか

 んさかいに。』

たしかに、そのためには千載一遇のチャンス。

勘太郎と本間は。新幹線のぞみに飛び乗った。

東京駅の八千代口に、警察庁から迎えが来ていた。

車が向かう先は、警察庁ではない。

『水田代議士の事務所に向か

 っております。』

運転手の説明に、本間と勘太郎はありがたみを感じていた。

水田代議士事務所に到着すると同時に。

『やぁ・・・

 本間さん、勘太郎君。

 待ってましたよ。

 勘太郎君が欲しい物は、こ

 れで良いのかな。』

水田晋作が、何やら手帳のような物を勘太郎に差し出した。

過去に、水田の事務所に訪れた沖縄の水産業関係者のリストである。

『僕は、この中のどなたかが

 、ヒョウモンダコの出どこ

 ろやと考えてます。

 たぶん、お嬢さんを殺すと

 は知らずに出荷して。』

場合によっては、犯人がいるかもしれない。

と思っている。

水田代議士は、沖縄の米軍担当の大臣を何回も勤めた。

沖縄の米軍基地の問題で、筋合いはなくても、ある程度の恨みはかっていると考えられなくもない。

『お前、それはなんぼなんで

 も、考え過ぎやて・・・』

帰りののぞみの中で、駅弁を食べながら、本間が話している。

『そうですよね。

 殺人の動機としては、非常

 に弱いと思えますよね。

 水田代議士が、大臣の時に

 沖縄を訪問して、生卵を投

 げつけられたという事件が

 あったことを思い出して。

 けど、娘さんなんて関係無

 いし。』

沖縄の米軍基地の問題が動機なら、直後水田代議士を狙う方が効果的だろう。

万が一、そんなことが原因なら、七奈美の死は、とばっちりもいいところである。

勘太郎の考える。もう1つの可能性は、七奈美の仲間に米軍基地被害者がいて、アクアリウム好きな七奈美にプレゼントするとか騙して地元の水産業関係者から取り寄せて、動機は、まったく違うことで。

勘太郎の頭の中でも、こんがらがっている。

『それに、過去には宮津湾で

 も発見されてますからねぇ。

 梨田先生と坂本さんに、ヒ

 ョウモンダコの産地を特定

 できひんか鑑定お願いして

 ますけど。』

勘太郎自身、何がなんだかこんがらがっている。

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