第6話 接点を探して

さて、祇園の乙女座で、奥の机に広げられた写真を見た忠太郎と勘壱。

『あれっ・・・

 この娘は・・・

 水田代議士の・・・

 勘太郎、何してる。』

勘壱の発言には、本間以下4人とも、驚いた。

『今日、殺されたんです。

 殺人事件の被害者です。

 お父さん、水田代議士って

 自民党のですか。』

まずいことに、水田七奈美は衆議院議員水田晋作の長女であった。

『本間警部、木田警部補、警

 察庁も全面協力する。

 絶対に犯人を上げてくれ。』

大変なことになってしまった。

翌日、京都府警察本部捜査1課は、騒然としていた。

『首塚前殺人事件捜査本部』

大きく貼り出された事件名表記を読む白髪の男性。

恰幅は良い方だ。

いかにも高級そうな、三つ揃いのスーツ。

衆議院議員水田晋作である。

その存在に気付いた勘太郎が、声をかけた。

『水田先生・・・

 そんな埃っぽい所におられ

 なくても。

 堂々と、入ってらして下

 さい。

 むさ苦しい部屋ですけど。』

勘太郎の笑顔に、緊張が少しほぐれたのか。

『ご親切に、ありがとう。

 君は、ここの刑事さん

 かね。』

最愛の娘を殺された、被害者の父親である。

勘太郎は、当然最敬礼で迎えた。

『ハイ・・・

 捜査1課凶行犯係第1班の

 班長をさせていただいてお

 ります。

 真鍋勘太郎、巡査部長であ

 ります。

 この度は、お嬢様のこと、

 本当にお悔やみ申し上げ

 ます。』

『そうですか・・・

 あなたが・・・

 この度は、お世話になり

 ます。』

勘太郎が、どういう存在かを、すべて理解しているようである。

勘太郎、水田晋作を招き入れると本間の前に誘った。

『警部・・・

 水田先生が・・・。』

本間は、立ち上がって深々と頭を下げた。

『京都府警察本部捜査1課課

 長の、本間でございます。

 この度は、お嬢様のこと、

 お悔やみ申し上げます。』

『おぉ・・・

 あなたが、人情警部と噂の

 高い。

 娘が、お手数をおかけし

 ます。』

衆議院議員とはいっても、今は、娘を殺された、被害者の父親である。

もう少し取り乱しても、許されそうなものだが。

マスコミの手前、がまんしているのが見え見えだ。

『先生・・・

 どうぞ、こちらへ・・・。』

本間は、水田議員を案内して部屋を出た。

昨晩から、地下の廊下を立ち入り禁止にしていた。

記者の潜入を避けるためである。

霊安室のドアを開けて。

『どうぞ、こちらへ・・・。』

水田七奈美の遺体が安置されている。

しっかりした祭壇がある。

身元が判明して、遺族に引き渡すための部屋だ。

先に、母親の千鶴子が取り乱している。

『あなた・・・

 七奈美が・・・。』

流石の水田議員も。

『警部・・・

 申し訳ありません。

 少し泣かせて、いただいて

 も、よろしいでしょうか。』

悪いはずない。

『大丈夫ですよ・・・

 このフロアは、マスコミを

 シャットアウトしてあり

 ます。』

本間の言葉を聞いてから、ようやく安心したのか、水田議員も七奈美にすがり着くように泣いた。

当然である。

その姿を見た本間は、国会議員になどならなくて良かったと思った。

愛娘が、無残に殺されても、泣くことすら、はばかられるというのは、本間には堪えられそうにない。

首塚前殺人事件捜査本部の会議室には、マスコミの記者が入れられ、騒然としていた。

『皆さん・・・

 いくら国会議員さんと云え

 ども、今回は、お嬢様を殺

 害された、被害者の父親で

 あるということを、お忘れ

 なきよう。

 いたずらに、面白可笑しな

 記事にされるようなことは

 自粛して頂きますようお願

 いします。』

制服は着ているが、記者達が見たことのない階級章を着けている。

近くの刑事達にたずねても、わからない。

記者達がザワつく中、本間と水田夫妻が帰ってきた。

木田の司会で、記者会見が始まった。

『皆様・・・

 先ほど、京都府警察本部本

 部長真鍋忠太郎よりお願い

 しました通り、安易なゴシ

 ップ記事にはしないように

 、くれぐれもお願いいたし

 ます。

 それでは、ご紹介いたし

 ます。

 京都府警察本部真鍋忠太郎

 本部長であります。

 警察庁真鍋勘壱刑事局長に

 、御臨席いただいており

 ます。』

そこに、萌がお茶を配って回ったものだから、尚一層、記者達がザワついた。

『お気付きの記者さんもおら

 れることと思いますが。

 4年ほど前の、ミスインタ

 ーナショナル日本代表。

 ミス日本の高島萌嬢。

 今は、当、京都府警察本部

 捜査1課の真鍋刑事と結婚

 されて、真鍋萌さんになら

 れました。』

複数の記者が。

『ということは、本部長のお孫さんのお嫁さんで、刑事局長の息子さんのお嫁さんということですか。』

当たり前のことだが。話題性は十分と言えそうだ。

堅苦しい、殺人事件のことは、国会議員の娘というだけで、他の殺人事件と、さほど変わらない。

したがって、言われなくても面白可笑しな記事やニュースになどできるものではない。

しかし、真鍋家三代の話題となれば、それだけでも、話題性は十分なのに、そこに萌まで加われば。

勘壱の策略だった。

『萌ちゃんには、気の毒だが

 、被害者家族を守るために

 力を貸してくれ。』

勘壱の頼みに、二つ返事で了承してしまった。

忠太郎と勘壱の横で勘太郎と萌が、手を繋いで並んだ。

シャッターチャンス以外のなにものでもない。

スクープではないかもしれないが、大きな話題ではある。

殺人事件の被害者の父親が国会議員だったというだけの話しより、よほど面白い。

『皆さん、たぶん私と主人に

 密着取材をご希望かと思い

 ますので、先にカミングア

 ウトさせていただきます。

 私は、現在、祇園の会員制

 クラブ乙女座で女将として

 経営させていただいており

 ます。』

政財界の要人がこぞって利用している超一流の高級店である。

『ということは、水田議員も

 お客さんで、行かれたこと

 があるのですか。』

すでに落ち着きを取り戻していた水田が。

『ハイ・・・

 おっしゃる通りです。

 京都に帰って来た時には、

 利用させてもろてます。』

悪びれることもなく答えた。

隠す必要も、悪びれる必要もない利用のしかたしかしていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る