第5話 驚きの

左京区岩倉から鞍馬街道を、猛スピードでかけ上がって行く、勘太郎のGTR。

貴船神社の参道石段下に、先に到着した小林は、ヘロヘロになっていた。

貴船神社の宮司が、石段下まで案内に来てくれた。

ヨタヨタと上り始めた小林を、勘太郎が脇から抱えた。

『大丈夫か、小林・・・

 もうすぐやからなぁ。』

勘太郎の言葉通り、境内にはすぐに上り着いた。

社務所や本殿の前を通り過ぎて、どんどん奥に進んで森の中に入って行く。

森の入り口からすぐの木の、高さで1メートル40ぐらいのところに藁人形を発見した。

胸の部分に、水田七奈美と書かれている。

あまりのあっけなさに、捜査員達は、残念な表情になった。

拍子抜けしていた。

『お前らなぁ・・・

 この藁人形がホンマもんと

 は限らへんやろう。』

勘太郎の言葉に、鑑識が動いた。

まずは、森の奥まで捜索すると、15体もの藁人形を発見した。

『なんとまぁ・・・

 令和の御代になって、こん

 なことやってる奴がこん

 なに。』

本間と宮司が呆れ顔で、呟いた。

『それにしても・・・

 水田七奈美が多過ぎませ

 んか。

 5体もありますが。

 捜査の撹乱か、それとも。

 まさか、それほど他人の恨

 みを・・・。』

勘太郎は、そこで黙ってしまった。

小林は、絶句している。

勘太郎の予測以上の結果が出てしまった。

5体の藁人形が、すべて別々の人物の物ということになれば、かえってややこしくなる。

とにもかくにも、すぐに本部に戻って鑑定作業が始まった。

鑑定結果は、すぐに出るため、会議室に止まる指示が出ていた。

鑑識課員3人が、会議室に戻って来て、全員が着席。

捜査会議が再開した。

『え~・・・

 貴船神社の森で見つかった

 藁人形5体の5寸釘の指紋

 ですが、すべて別人のもの

 でした。

 それから。たぶん勘太郎さ

 んから依頼されると思って

 識別したんですけど。

 パーティー参加者のものは

 ありませんでした。』

ややこしくなったどころではなく、容疑者が増えただけになった。

パーティー参加者が6名

藁人形の指紋が5名

11名について、調べる必要が出てしまった。

しかし、そこは流石の捜査1課。

京都府警察が誇る、精鋭捜査官。

『んなもん、捜査を進めたら

 、いずれ出てくる連中や

 ろう。

 手間が省けたと思ってよ。』

小林は、身震いするほど感動していた。

『勘太郎先輩・・・

 皆さん凄いですねぇ。

 僕、ここで刑事になれて良

 かったです。』

勘太郎、クスっと笑った。

その夜、勘太郎は、いつものように祇園の乙女座の奥の席で、ブツブツ呟いていた。

そこに、本間と木田が、小林を伴って合流して、いろいろな写真を広げた。

『大丈夫ですか、こんな高そ

 うなお店で。』

小林は、不安で仕方ない。

『心配するな。』

と、勘太郎に言われても、小林にとっては、根拠がない。

『あれっ・・・

 今日は、トリオやのうて、

 カルテットなんですねぇ。』

高島萌改めて、真鍋萌が、勘太郎のブランデーとグラス4個とアイスピッチャーを運んできた。

萌の輝くような美しさに、震えながら、直立不動姿勢で敬礼する小林。

『自分は、京都府警察本部捜

 査1課凶行犯係真鍋班の新

 人で、小林と申します。』

ガチガチに固まってしまった。

本間と木田は、ニコニコ微笑んでいる。

『わぁ・・・

 それは、ご挨拶が遅れてし

 まいまして、申し訳ござい

 ません。

 いつも主人が、お世話にな

 りまして、ありがとうござ

 います。

 私、勘太郎の家内、萌と申

 します。

 ここの女将。させてもろて

 ます。』

小林、飛び上がるほど驚いた。

『班長って、ホンマに心臓に

 悪い方なんですねぇ。

 昼間から、ビックリしてば

 っかりですわ。』

そこに、真鍋忠太郎と真鍋勘壱が入ってきた。

今度は、本間と木田が飛び上がって直立不動の敬礼。

『お疲れ様です・・・

 こらっ・・・

 小林・・・

 きおつけ・・・

 敬礼・・・。』

小林、わけもわからずに、直立不動の敬礼。

勘太郎も、一様に直立不動の敬礼をしている。

『お父さん、いつ帰ってきは

 ったんですか。

 おじいちゃん、知ってはっ

 たんですか。』

小林、また勘太郎を見つめた。

『小林・・・

 お前が知らんでも

 当たり前や。

 こちら、勘太郎のお祖父

 様で、真鍋忠太郎京都警察

 本部長。

 そしてこちらは、真鍋勘壱

 警察庁刑事局長、勘太郎の

 お父上様や。』

小林は、気が遠くなりそうだった。

国会などで、警察を代表して答弁したりする日本の警察官のトップである警察庁刑事局長と京都の警察官のトップである本部長が目の前にいて、しかも、自分が心酔する、上司の勘太郎の祖父と父親という。

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