第4話 鍵を握るのは

人情警部と呼ばれる。本間警部の一面が出た形だが。

『警部・・・

 そんなこと言うてる場合や

 ないと思います・・・

 それしか、手掛かりを探す

 方法があらしまへん。』

小林という若い刑事が発言した。

そんなことは、全員がわかっているのだが。

人情派の本間をおもんばかって、あえて言わないという感じになっている。

『あのぉ・・・

 部屋にあった紙袋から、こ

 んなもん見つけたんですけ

 ど・・・

 なんか。手掛かりになりま

 せんか・・・

 和蝋燭と鉄鉢巻ですけど。』

鑑識の1人が言って出た。

これに勘太郎が食い付いた。

『警部・・・

 俺、貴船神社行ってもえぇ

 ですか・・・

 きっと、木立のどこかに、

 藁人形が、打ち付けられて

 て5寸釘で・・・

 その5寸釘に指紋がある

 はず・・・。』

弾けるように、本間が笑ったので、一同も爆笑したのだが。

若い刑事達には、わからない。

『お前、また魔界に足突っ込

 むのんか・・・。』

木田が、そこまで突っ込んでも首をひねっている小林。

『小林・・・

 お前、牛の刻参りって知っ

 てるか・・・。』

小林・・・

まだ、首をひねっている。

『牛の刻いうたら。真夜中や。

 午前の1時から3時や。

 その時間に、白い着物着

 て、頭に白い鉢巻で和蝋燭

 2本くくりつけて。

 神社の木に、5寸釘で藁人

 形を打ち付けて、憎い奴を

 呪う儀式や・・・。』

勘太郎は、打ち付けられている藁人形の中に、水田七奈美の人形があると考えた。

そして、水田の藁人形を打ち付けたのが犯人で、5寸釘に指紋が残っているというのだが。

一同、さらに爆笑している。

木田と小林だけは、笑っていなかった。

『よっしゃ・・・

 行こか、勘太郎。』

木田が、立ち上がった。

『木田警部補・・・

 真鍋班長・・・

 俺も、連れて行って下

 さい。

 お願いします。』

小林が、木田に駆け寄った。

『お前なぁ・・・

 GTRの、後ろ座席、めち

 ゃくちゃ狭いぞ・・・。』

木田が勘太郎に同意を求めようと振り返ると、勘太郎は、どこかに電話中。

『警部補・・・

 貴船神社の宮司さんの許可

 頂きました。

 鑑識さんへの、出動要請も

 しておきました。』

なんとも、手回しが良くなっている。

会議に参加していた鑑識課員3人がため息をつきながら立ち上がったところへ、勘太郎が。

『そうや・・・

 鑑識さん・・・

 こいつ、乗せたってもらえ

 ませんか・・・。』

鑑識車は、いつもの箱型貨物車で、5人乗り。

そこに、3人なのだから、余裕綽々である・・・

勘太郎の頭には、もう1人のことが浮かんでいた。

いつもの通り、地下の駐車場にGTRのエンジン音が響く。

木田と勘太郎が乗り込んだ時、いつも通りの感覚がよみがえっていた。

『やっぱり・・・

 落ち着きますねぇ・・・

 警部補・・・。』

いつものように、後部座席に本間が乗っていた。

『そうやなぁ・・・

 やっぱり俺らは・・・。』

3人で、大爆笑しながらGTRが、猛然とスタートした。

鑑識車両は、かなり先行しているはずだと、勘太郎は思った。

『足手まといになってへんか

 ったらえぇんですけど。』

小林の心配をした勘太郎。

だが、その心配、当たらずとも遠からず・・・

箱型貨物車で、山道をサイレンを鳴らしながらの緊急走行の過酷さを思い知った。

貨物車は、元々荷物を積んでから安定するように設計されている。ほとんど空荷の往路は、カーブする度々グラグラ揺れるが、緊急走行の速度で走るのはいかがなものか。

ましてや、後ろからは、モンスター級スポーツカーが追いかけてくる。

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