第3話 魔界の影響

木田は『京都神田明神前殺人事件』という名称を考えていた。

マンションの目の前が、平将門の首塚である神田明神であるため、地名を使ったという形で、よくありがちな名称のつけかたではある。

勘太郎が同意したため、その名前で決まってしまった。

京都府警察本部捜査1課の横の大会議室の扉に『京都神田明神前殺人事件』という名称の紙が貼り出されて、第1回の捜査会議が始まった。

『実際は、まだ事件と自殺の

 両方の可能性がある。

 みんな、笑うと思うが。

 凶器がたこ焼きという、バ

 カバカしい話しや。

 ほな、科捜研の坂本主任

 から、説明して下さい。』

今回は、木田警部補の司会で始まった。

坂本は、立ち上がりはしたものの、いつものようなキレがない。

『今回は、検死活動の第一印

 象と、死因・・・

 死因は、テトロドトキシン

 による、中毒です。

 被害者のご友人が、沢山い

 てられたことだけで、最初

 フグのパーティーでも、や

 ってられての事故と考えて

 しまいました。

 その先入観にとらわれて、

 鑑識さん達にもそれなりの

 お願いしかしませんで

 した。

 そやけど、救急隊の添田隊

 長が、木田警部補に電話し

 はったことで、木田警部補

 と真鍋班長が、臨場してく

 れて、事態が変わりま

 した。

 ここからは、勘太郎君、お

 願いします。』

今まで、捜査会議で勘太郎が発言したことはなかったのだが。

今回は、坂本には、完璧な説明をする自信がなかった。

『ハイ・・・

 最初、現着した時は、平将

 門の怨霊にでも祟られたか

 と思たんです。』

いつも、何かと魔界にこじつけていたので、みんなを和ませたくて、冗談のつもりで、そんな話し始め方をした。

ところが、会議室が大爆笑になってしまった。

狙いが外れたわけではないが、それほど、魔界にこだわっていたのかと、あらためて気づかされることになった。

『坂本主任から、テトロドト

 キシン中毒って聞いた後、

 ふと見回したら、テーブル

 にたこ焼き器が3台も重ね

 てあって。

 友達が、中毒でのたうち回

 っている時に、片付ける

 って、えらい冷静やって思

 たんですわ。

 で、逓信病院に梨田先生が

 居てはることを思い出して

 、被害者の食べ物確認だけ

 お願いしました。

 ここからは、梨田先生お願

 いします。』

梨田医師は、自分に発言チャンスをくれるよう、勘太郎に頼んでいた。

『勘太郎君、ありがとう。

 皆さん、今回の事件は、笑

 ろてられるような、軽いも

 んやなくなってます。

 考えてみて下さい。

 たこ焼きで、しかも確実に

 人殺しができたら。

 そんなことが、世間に広ま

 ったらって考えたら、正直

 私は、背筋が寒ぅなりま

 した。

 テトロドトキシンが、青酸

 カリの40倍ぐらいの猛毒

 やてことは、皆さんご存知

 ですよね。

 成人男性が、10人以上死

 ぬ量の猛毒を持つ生き物が

 簡単に、手に入れることが

 できたら。』

梨田医師が、そこまで話した時、本間が話しを止めた。

『梨田先生・・・

 ありがとうございます。

 みんな、考えてみてくれ。

 入手が、簡単で、誰も警戒

 心がない猛毒が出回って、

 しかも確実に、そして、ピ

 ンポイントに殺したい奴を

 殺せる方法が世間に広まっ

 たら・・・。』

たしかに、殺したい相手がいる人は、いることは想像できる。

もちろん、ほとんどの人は恨みはしても、実際には、そんな相手に近づきはしない。

また、目的殺人だけでなく、無差別殺人でも使えなくはない。

会議室には、100人以上の捜査員がいるのに、静まりかえってしまった。

『まぁ、あんまり深刻にはな

 らん方がえぇのかもしれへん

 けどな・・・

 とにもかくにも、まずはい

 っしょにいてた友達との関

 係性から当たるしかな

 いか。』

本間としては、友達を亡くして哀しんでいる最中の若者を疑いたくはない。

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