第2話 首塚

現場のマンションでは、科学捜査研究所の坂本を中心に、まだ鑑識作業の真っ最中。

救急隊の添田消防士長と話し込んでいた坂本を見つけると、梨田医師が、声をかけた。

『坂本君・・・

 勘太郎君は、まだ、居てる

 やろうな・・・。』

梨田医師の慌てた様子に、坂本も、何かを感じた。

『ハイ・・・

 あちらの部屋に・・・。』

坂本が指し示す方向の部屋に、梨田医師が駆け込んで。

『勘太郎君・・・

 あっ・・・

 木田さんも居てるか、あり

 がたい。』

叫びながら、飛び込んで来た梨田医師に、木田は驚いたようだが、勘太郎は、まるで待っていたかのように・・・

『先生・・・

 お疲れ様です・・・。

 出ましたか・・・。』

『あぁ・・・

 出た、ヒョウモンダコ

 の唇。

 たしかに、死因はヒョウ

 モダコのテトロドトキシン

 やけど・・・。

 これは、記者発表するのは

 どうかと思うで。』

梨田医師の慌てた様子に、木田も不思議さを感じて。

『梨田先生・・・

 どないしはったんですか。』

『木田さん・・・

 これは、まったく新しい形

 の殺人事件や・・・

 世間に知らせてしもたら、

 必ずマネするアホが出てき

 よる・・・。』

勘太郎は、うなずいている。

『警部補・・・

 そろそろ現れますよ。』

勘太郎の、その言葉にあわせたわけではないだろうが。

本間警部が、現場に入って来た。

『おぅ・・・

 みんな、ご苦労さん・・・

 勘太郎・・・

 また、変な発見したらしい

 なぁ・・・。』

梨田医師が本間に連絡することは、勘太郎には折り込み済みだったようだ。

『勘太郎・・・

 まったくお前は・・・

 変なことばっかり思いつき

 よるなぁ。

 ほんで、次は・・・。』

勘太郎が、次の考えに周りの監察点を変えていることには、本間には、お見通しだった。

『いやぁ・・・

 水田七奈美さんが、狙われ

 たのか、それとも無差別や

 ったんか・・・。』

ピンポイントで、水田七奈美を狙ったとしたら、どうやって確実に命中させたのか・・・。

たこ焼きパーティーで、確実に毒入りのたこ焼きを水田に食べさせたとしたら。

それとも、無差別で、たまたま水田に当たったのか・・・。

と、すれば、部屋の隅っこに片まって震えている友人の誰もに、被害者になった可能性がある。

いわゆる無差別殺人だったのか。

本間と梨田と勘太郎の話しを聞いていた救急隊の添田が、ヘナヘナと崩れて座った。

『こんなアホなことってあっ

 てえぇわけあれへん。

 そうでっしゃろう、本間

 警部。

 友達、みんなで集まって、

 楽しくたこ焼きパーティー

 してるのに、殺人なんて、

 悲し過ぎるやないか。』

添田は、本気で泣いていた。

隅っこで片まっていた。水田七奈美の友人達も、泣いていた。

『坂本君・・・

 鑑識さん・・・

 捜査1課に、この事件の捜

 査本部をつくる。

 説明準備しといてくれ。

 勘太郎、警部補と事件名、

 考えろ。

 たこ焼きパーティー殺人事

 件は、あかんぞ。』

梨田も木田と勘太郎も、そんな名称は、お断りだった。

『先生は、私の捜査1課長公

 用車で、行きましょうか。』

勘太郎のGTRは、スポーツカーで、後部座席は成人男性用ではない。

梨田医師は、内心、GTRに乗ってみたかったのだが。

本間の気づかいに従った。

本間の公用車は、センチュリーで、ゆっくり静かに走るための車。坂本の科学捜査研究所公用車は、機材を積むための箱型貨物車。

鑑識も、同じ車両で、とてもドクターが同乗するような車ではない。

本間のセンチュリーが、暖房のために、エンジンをかけっぱなしだったにもかかわらず、GTRのエンジンがスタートすると、エンジン音が聞こえなくなってしまった。

木田と勘太郎は、本間から言われた、事件名称のことを考えながら帰った。

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