京都魔界伝説殺人事件・3
近衛源二郎
第1話 新たな殺人事件。
鳴くよウグイス平安京。
794年、桓武天皇によって遷都された千年の都、京都。
烏丸丸太町、くれぐれも、とりまるまるふとりまちではない。
からすままるたまちと読む。
京都御苑の南西の角にある交差点である。
ここから北へ一筋、西に入ると、京都府警察本部の建物が見える。
その京都府警察本部で、捜査1課凶行氾係の電話が鳴った。
『ハイ・・・
京都府警察本部捜査1課凶
行氾係、木田です・・・
あら・・・添田さん。
変死体ですか。
それやったら担当・・・
へっ・・・。
病気と違うって・・・
場所は、綾小路西洞院東
了解です。
ありがとうございます。』
電話は、京都府消防救急隊の添田消防士長である。
以前、現場でいっしょになって以来、様々なことで、意見交換している。
『勘太郎・・・
マンションで、変死体や。』
勘太郎は、首をかしげた。
『係長・・・
それって、生活安全課と違
うんですか。』
『救急隊の添田消防士長の見
た目で、病死やないらしい。
行くぞ。』
勘太郎、いつものように、覆面パトカーの準備を始めた。
しかし、珍しく本間警部が、姿を現さない。
助手席に飛び乗った木田警部補も、すぐに違和感を持った。
『おい、勘太郎・・・
おっさんは・・・。』
勘太郎、さすがに待ってもいられないので、運転席に乗り込みながら。
『どうされたんでしょうね。
お身体の具合でも・・・。』
本気で、心配している。
『アホか・・・
心配いらんわぃ。
あの辺に、美味い店あらへ
んやろう。
そやさけ、来はらへんだ
けや。
おっさんらしいわぃ。』
勘太郎、まさかと思いながらも、ある意味納得できるので、おもむろに回転灯とサイレンのスイッチを入れて、発車した。
いつもの、黒い日産スカイラインGTRのチューニングパトカーが、けたたましいホイールスピンを起こし、サイレンの音を響かせながら、猛然と走り出した。
下京区綾小路西洞院といえば、繁華街四条通りから1本南に入っただけの、賑やかな地域。
府警察本部からは、さほど離れていない。
あっという間に到着した2人は、現場のマンションに入った。
救急隊3人と、見覚えのあるスイングトップ姿の捜査官が1人。
京都府警察が誇る、科学捜査研究所の主任研究員、坂本である。
『木田さんと勘太郎君か・・・
またまた、ややこしいこと
になりそうやで。
テトロドトキシンの中毒や
けどなぁ。
見ての通り、この部屋に、
フグの痕跡があらへん。
フグのパーティーでもやっ
てて、事故と考えたんです
けどねぇ。
てっちりもてっさも、やっ
てた形跡が、あらしま
へん。』
見ると、数人の鑑識課員が。
『すみません。
事故の場合でも、現場検証は、せなあかんのですわ。』
坂本主任が呼んだ鑑識であった。
『被害者は、水田七奈美さん
21歳、会社員さんです。
これ、事故で処理してよろ
しいですか。』
鑑識課員の報告に、勘太郎が待ったをした。
『いや・・・
めちゃめちゃ、違和感あり
ますよ。
テーブルにたこ焼き器が3
台もありますよね。
プレートの温度、計って下
さい。』
たこ焼きプレートの温度は、40℃であった。
『たこ焼きパーティーですね。
けど、事故にしては、温度
が低いと思いませんか。』
またまた、ややこしいことを言い始めた。
『幸い、すぐそこの逓信病院
に梨田先生がおられます
ので、胃の内容物に、ヒョ
ウモンダコの唇が残ってへ
んか調べてもらって下
さい。』
坂本主任は、驚いた。
『ちょっと待て勘太郎君。
とんでもないこと言うて
るで。
ヒョウモンダコを使った、
たこ焼き殺人を疑ってる
んか。』
木田も呆れ顔だ。
『相変わらず、突拍子もない
ことを考える奴やのぅ。』
たしかに、ヒョウモンダコが唇に猛毒テトロドトキシンを持っていることは、有名な事実だが。
まさか、そんなもので殺人など、バカバカしいと坂本と木田は思うのだが。
鑑識の平職員には、捜査1課凶行氾係のエースと言われる敏腕刑事の頼みである。
数人で、水田七奈美の遺体をストレッチャーに乗せて行った。
逓信病院は、その名の通り、旧郵政省が運営する、公的病院である。
その手術室で、梨田医師が呆れていた。
『まったく・・・
いつもながら、なんちゅう
洞察力しとるんや・・・
鑑識さん。
勘太郎は、まだ現場に居て
るんですか・・・。』
若い鑑識課員が、顔を見合せてうなずいた。
すると梨田医師が、あわてて手術服を脱ぎ捨てながら。
『申し訳ない・・・
案内して下さい。』
言うが早いか、走り出してしまった。
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