Episode11-C 一緒にいてくれ……

 彼氏と別れたかったが、今は別れを切り出せるタイミングではなかった。

 彼氏の友人が……それも五人もの友人が相次いで亡くなったのだ。

 いや、正確に言うと五人の友人だけじゃない。

 三人目は同棲中の彼女も、四人目は同居中の両親と弟も、五人目はたまたま家に来ていたらしいガスの保安点検員までもが一緒に亡くなっていたのだから。


 彼ら十人の詳しい死因や遺体の状況については、私は知らない。

 けれども皆、いわゆる”怪死”であったらしい。

 普通の死に方ではなかったと。そもそも、死に方に普通なんてものがあるのかどうかは分からないが……

 

 五人目の葬儀後、私は彼氏をマンションまで車で送っていった。

「このまま帰らないでくれ。俺と一緒にいてくれ」と涙目で懇願された私は、そのまま今夜だけ彼氏の家に泊まることにした。

 

 彼氏は喪服も脱がずに、ベッドの上で膝を抱えたまま、ガタガタと震え続けていた。


「最後は俺だ最後は俺だ最後は俺だ……違う違う違う……俺だけは違う……俺だけは止めようとしたんだ……”あの時”俺だけは止めようとしたんだ。なのに、あいつらが……」


 ”あいつら”――彼氏の友人たち――は、いわゆる性質の悪いウェーイ系であることは私も分かっていた。

 この彼氏自身も単体なら普通なのだが、あの友人たちといるとどうも気が大きくなってしまうらしい。

 「もっと友達は選んだら?」と言った私に、「ボッチよりかマシだろ」と答えたこともあった。

 ま、こんな風にええかっこしいで気が小さい所も、私に別れを検討させる一因ではあったのだが……そんなことよりも、彼氏にはこんなことになる”心当たり”がしっかりあったのだ。


「二週間ぐらい前、あいつらと深夜にドライブに行ったんだ。山道に差し掛かった時、大きなお腹をした若い妊婦が上に向かって歩いていて……あいつらは面白がって囃し立てて……逃げようとした妊婦は崖から落ちて……」


「そ、それで、救助は呼んだの?!」


「呼べるわけないだろ! あいつらも絶対に呼ぶなって言ったし!」


「怒鳴らないでよ! それに何、人のせいにしてんの!!…………でも、お腹の大きな妊婦が深夜にたった一人で山道を、それも上に向かって歩いていくなんてこと、普通あるかしら? その妊婦って本当に生きている人間だったの?」


「や、や、やっぱりそうだよな? 人間じゃない何かに、あいつらは殺されたんだよな? 一生のお願いだから、俺と一緒にいてくれ。俺と一緒に……」


(完)

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