第5話
終業式の日。桜は咲いていなかった。
学校から少し離れた、有名な一本桜の下。登下校に使われる道でもなく、同級生もなかなか通りすがらないこの場所で、わたしは人生で初めて、告白をした。
自分で何と言って告白したのかは、あまり覚えてない。「好きです」とか「付き合ってください」とか、そういった月並みな言葉しか言えなかったと思う。
「そっか。すげー嬉しい」
桜庭くんの笑顔に、取り繕っているようなところはなかった。わたしが周りに好きだって言っていたことを知らなかったわけではないだろうし、驚きよりも嬉しさが内から滲んだというのがしっくりくるような、やわらかい日差しのような笑顔だった。
修学旅行で初めて意識して、友達から色んなことを聞いて、秋には遠くから眺めて、冬には一緒にいる時間を少しずつ増やして、バレンタインではチョコレートも渡して、今までやってこなかった色々を、試行錯誤した。
きっかけは何でもいい。好きだと言っていれば、いつか好きになるものだ。
マンガも、ラブソングも、友達も、みんなそう教えてくれた。
そして、それでも。
「でも僕、今、好きな人いるんだ」
そう言われるのは、判っていた。
それを判っていながら、それでも告白せずにはいられなかった。
「だから、ごめん」
桜庭くんは頭を下げてくれる。それがとても申し訳なく思えてきて、最初に会った時のいたたまれなさをほんの少し思い出す。
この告白は、わたしの勝手なんだ。謝られるようなことじゃない。断られるだろうと半分以上確信していて、それでも、告白したいと思った、わたしの勝手。
だから、そんな身勝手な告白に誠実に対応してくれたことに、こんな誠実な桜庭くんを謝らせてしまったことに、わたしの心はほんの少しだけ抉られてしまった。
「ううん。こっちこそ、ごめんね」
そうして、わたしの人生初めての告白は、あっけないほど簡単に、終わった。
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