作品NO.6 例えばこんな自己憐憫
栄光の影で重なる問い、その一つの答え
大手メガネメーカーとの提携、オリンピック公式メガネ作家への任命、皇族のメガネを一手に引き受ける大役への抜擢。
地位と名誉に伴うように空刻はメガネ作家としての仕事で遽に大きな財を築き、邸宅を構え、新聞記者だった女性と結婚します。
空刻の名を冠したメガネは生産が間に合わない程に売れに売れ、偽物も出回る程でした。世界の要人、映画スター、著名な芸術家や小説家。そしてそれらの関係者やファンたち。皆こぞって空刻のメガネを求め、この星は空刻のメガネで溢れました。
しかしその影で、空刻の身には悲劇が訪れました。
空刻の妻と、会社経営者として成功していた彼の兄との不倫が発覚したのです。
彼は事実上、信頼する兄と愛する妻とを同時に失い、その失意の中で病を得て入院します。
その中でも社会は、空刻に作品の作成を強いました。ルーブル美術館で開催される特別展の締め切りが、入院中の期間と重なったのです。
空刻は量販店のメガネを病室に求め、その左のレンズに彫刻刀で小さく名前を彫り、担当者にこう伝えました。
「このメガネをタイトルの名札と共に展示場所の床に置いてください。ケースも台も置かないでください。ただ、タイトルとメガネだけを床に置くのです。これは今後も、どんな展示でも守られなければならないルールです。タイトルは、例えばこんな自己憐憫」
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