第27話:奴隷商人の息子は獣人族の尻尾でビビる

 全身鏡で自分の姿を映す。いつまでたっても自分の姿に慣れない。

 誰だよ、この金髪イケメンは? あ、俺か。


 元いた世界では、黒髮で短足で普通の人でしかなかった俺がこの世界では金髪王子様キャラだよ。

 しかも、元冷酷奴隷商人の息子で、鬼畜で非情なゲス野郎だよ。

 そんな俺に、懐く奴隷たちなんていないと思っていたけど、やっと最近は話をしてくれるようになってきた。


 しかし、昨夜のアルノルトとの演技の余波はかなりあった。

 そりゃ、鞭でビシバシ脅したもんな。

 今朝から奴隷たちもピリピリしているのがわかった。


「おい、ちょっといいか?」


 俺は。中庭でのんびりと茶を飲みながら、庭で草抜きしている奴隷に声をかけた。

 声をかけた瞬間、パッと立ち上がった猫耳の奴隷の女の子は、ダッシュで俺のところに駆け寄ってくる。

 そんなに走ると転んでしまうよって声をかけたいが、勢いのすごさに逆にビビってしまった。


「はい、なんでしょう?」


 ぜぇぜぇと肩を上下させ息を切らせた猫耳の子。目がクリッとしていてまつげも長く、なかなかの可愛い子ちゃん。

 俺に何を命じられるのかビクビクしているのは伝わってくる。

 やはり昨夜の効果はてきめんだった。


「その猫耳を触らせてもらってもいいか?」


 そう、俺はずっと気になっていた。

 耳を触ってみたい、尻尾を握ってみたいと。


 獣人族の耳って、アニメでは触るとウフンって快感に身悶えるシーンがよくある。

 やはり、この世界の獣人も同じなのだろうか。

 尻尾だって、アニメでは握っただけで、力がぬけちゃうー! なんてへたり込んでしまうじゃないか。


「耳ですか? でも、なぜ……あ、失礼しました。どのような理由であれニート様がご所望なら……」


「いいのか? じゃぁ、触るぞ」


 俺は、猫耳の片方を軽くつまんでみた。柔らかくて人肌に温かい。

 穴の中まで毛が生えていて、ふわふわした羽毛のような手触りがする。

 ずっと触っていられるような、なんとも言えない感触に満足する。


 猫耳の女の顔を見る。目を固く瞑っているが、決してウフン、アハンと悶えたりしていない。

 やはりあれは、漫画だけの表現なのだろうか。


「耳を触られてどうだ? 気持ちいい?」


「き、気持ち良いと言えば気持ちいい……です」


 やっぱり気持ちいいのか。たしかに、俺だって女の子に耳を触られたら気持ちいいと思うもんな。

 今度は、そっとフェザータッチで指先が触れるか、触れないかのギリギリで耳を愛撫していく。


「きゃっ! ああんっ……そんな風に触られたら……んんんんっ!」


 これはかなり我慢しているのがわかる。そうか、触り方か。

 指を耳の穴にそっと差し込むと、プルプルっと耳が震えて、後方に倒れた。

 ピンと立っているだけかと思ったら、耳も倒せるのか……おもしろい!


 俺の前にひざまづく猫耳の少女。その耳を、ワクワクしながら触っている俺。

 この姿を見た、他の奴隷たちは目を背けている。何か変なことしてるのかな?


 息も絶え絶え、荒い息を吐きながら猫耳少女は、潤んだ瞳で俺を見上げると言った。


「あの……この後は、ここでされるのでしょうか?」


「は? 何をするっていうんだ?」


「何をって……言わせたいのですね。ニート様のいじわるぅ……」


 なんじゃこれ? いったいどういう意味だ。何を始めるというんだ?

 とりあえず、満足するまで耳を触りまくると、少女モジモジしながら耐えていた。

 耳を触られると気持ちがいいんだ。アニメで見たあのリアクションって本当だったんだ。


 フゥーと息を軽く吹きかけてみる。

 柔らかな白い耳の毛が、息でそわそわと動くとブルブルと耳が痙攣した。


「ああんっ! うにゅにゅ……ぅ」


 ははは、面白い!

 俺は、つい夢中になって猫耳で遊んでしまった。


「ニートさまぁ……はぁはぁ、お許しください……わたし、もう限界かも……」


「耳を触ったぐらいで大げさだなあ。じゃぁ、今度はこっちだ!」


 俺は、猫人族の娘の尻尾をグッと握る。


「きゃぁっー! そこは……敏感だから……らめぇなのぉ」


 突然握ったもんだから驚いたのか、猫人族の奴隷は石畳の上に突っ伏してしまった。

 ああ、尻尾もやはり性感帯みたいなもんなのか……

 細くてしっかりした毛の感触に、芯が入っているようなしっかりした手触り。

 俺はしばらく尻尾をにぎったり、さすったりして感触を楽しんだ。


「ニート様、何をしてるんですか?」


「アルノルトか。いや、獣人族の耳とか尻尾って触ったらどうなるのか気になったんだよ」

「ダメですよ、むやみに触ったりしたら。獣人族にとって、そこは急所ですからね」


 急所って、あれか、俺の真ん中にぶら下がっているアレみたいなもんか?

 蹴りあげられると、悲鳴をあげてピョンピョン飛び跳ねてしまうほど痛い、アソコと同じか?


「そうなのか? だから、この子はこんなところで寝てしまったのか」


「なにをのんきに……。こんな昼間から奴隷とお戯れとは……」


 お戯れって、ちょっと触らせてもらっただけなのに。

 ふと、周りを見ると奴隷たちがビクビクして逃げ腰になっているのが見えた。

 次は我が身と、震えている。


「なぁ、俺ってそんなに悪いことしたっけ? 尻尾を触るのってダメなの?」


「ダメです! 獣人族の尻尾を掴むということは服従しろという命令と同じ。もうこの娘はニート様にしか命令を聞かない子になってしまいましたよ」


「えぇーー! マジか! それは困るよ。なんとかキャンセルできないかな、尻尾触ったことをなかったことに」


「できません!」


 ピシャリとアルノルトに叱られてしまう。いつもはこの男もビクビクしているのに、なぜそんなに起こっているんだ?


「ニート様がもし、街を歩いていて知らない人からいきなりアソコを握られたらどうしますか? ちょっと触らせろとお尻の穴に指を入れてこられたらどうでしょうか?」


「うん、気持ち悪くて逃げ出すだろうな」


「それと同じことをしたのです。しかも、逃げ出せない状態にして……」


 うっ、俺ってそんな酷いことをしたのか……マジか、知らなかった。

 スキンシップのつもりで、軽い気持ちだったのに、まさかそんなことだなんて。


「獣人族でも猫人族の尻尾は敏感です。逆に、パオリーアの尻尾は触っても何も感じないですし、マリレーネのような獅子人族の尻尾は触った瞬間に殴られてしまいます」


「えっ! 怖っ、マジか。マリレーネの尻尾って触ったらダメなの?」


 ちょうどその時、マリレーネが歩いてくるのが見えた。

 遠くからでも華があるのか、目立っている。オーラがあるというか、美しさが最近増してきた気がする。


「マリレーネに直接聞いてみてください」


 アルノルトが、ほくそ笑んで俺を見る。こいつ、面白がってやがるな。

 マリレーネがそばまで来ると、石畳の上に寝転がった猫人族の娘を見て、驚いて駆け寄った。


「ねぇ、どうしたん? 大丈夫?」


 マリレーネが抱き起こすと、猫耳娘は眠りから覚めたかのように、ううーんと伸びをした。

 あれ、眠っていただけじゃないのかな?


「マリレーネよ。獣人族の尻尾を触ったらダメなのか?」


「別にいいんじゃない? だけど、猫人族だけはやめたほうがいいよ。だって、懐かれて離れなくなるからさ」


 げっ、マジか。この娘の面倒を俺は一生見なきゃならんってことか。

 むくりと起き上がった猫人族の娘が、俺の方に向き直すと土下座する。


「ニート様の求愛、しかと受けました。こんな私ですが誠心誠意お仕えしたいと思います」


 求愛って、求愛なんてしてないし……え、えぇー! 尻尾触ったら求愛したことになるの?


「ど、どうしよう、アルノルト! 求愛のつもりじゃなかったんだ、本当だ信じてくれ!」


「あーあ、やってしまいましたね。しかし、男なら責任を取るべきでしょうね。ビシッとニート様らしく、俺の嫁になれと一言命令されたらかっこいいなあー」


 こ、こいつ、面白がってやがるだろう。

 くそっー!


「いや、その。ちょっと触ってみただけで……だから、今のはなかったことに」


「「できません!」」


 マリレーネまでアルノルトとハモるなんて。なんてこった。

 いや、別にこの娘を嫁にもらうのは、嫌ではないが、こんな形で決まるなんておかしいじゃないか。


「ええい、何をゴタゴタ言っている! 俺は奴隷の尻尾を触っただけだ。求愛だと? 結婚だと? 馬鹿野郎、俺はケモミミの女の子の耳や尻尾を触るのが好きなんじゃいっ!」


 あー、言ってしまった。やっちまったよ。

 その場で俺は椅子に座ると頭を抱えた。これでは、鬼畜ニートと同じじゃないか。

 奴隷の女の子の心を傷つけたほうが、罪は重い……はず。

 俺は、しばらく何も考えられないでいた。


「そうでしたか。触るのが好きで、求愛のつもりではなかったと……だからなかったことにしたいと?」


「そうだ。悪いか。俺は奴隷商人の息子だ。この娘たちは奴隷だ、何をしてもいいだろう?」


 マリレーネが、目をまん丸にして驚いている。


「ニート様、やっぱり昔のままですね。ちょっと優しくなったと思った私がバカでした!」


「ニート様は何も変わっておられないんですね。やはり、奴隷をそんな風に思っていたんですか」


 落胆したように、肩を落としため息をついたアルノルトは、やれやれと肩をすくめた。


「わ、悪かったよ。言いすぎた。猫の子も言いすぎた。悪かったな、奴隷だから何をしてもいいなんて思ってないから」


 俺は、平身低頭になり何度も頭を下げた。


「はい、じゃあ、冗談はこれくらいにしてそろそろ部屋に戻りましょうか」


 パチンと手を打ち鳴らしたアルノルトは、そう言うと猫耳娘がぺこりと頭を上げて花壇へと走って行った。

 マリレーネも、ニンマリと不敵な笑みを浮かべている。


「お前ら、俺をたばかったな!」


「いいえ、嘘をついたわけではないです。本当に、尻尾はむやみに触ってはいけないのは本当ですよ」


「では、求愛のポーズみたいなことをあの娘は言っていたけど、どうなんだよ」


「それも本当です。ただし、触っただけでは求愛にはなりません。お互いの尻尾を絡めあってこそ、求愛になるのです」


 お互いの尻尾って、俺には尻尾なんてありませんけど……

 きょとんとした俺に、アルノルトはさらに追い打ちをかけてくる。


「昔からの言葉で、『龍の逆鱗、獣人の尾に触れる』ってことわざがあるように、気軽に触ってはいけないという戒めです。尻尾には大きな神経が入っているので、握られると恐怖から悲鳴を上げてしまう子も多いですから」


 そんなことわざなんて知らんし。知らんし……!


「ニート様の焦った顔、すごく可愛かったです。あんなニート様が見れて、キュンッてしちゃいました」


 マリレーネが、大きな乳房をボヨンと揺らしながら、にこりと笑うもんだから怒りが鎮まっていく。

 さすが、巨乳。おっぱいこそ正義。


「マリレーネ……。とりあえず、お前の尻尾も触らせてくれ」


「ええっー! 嫌ですよ。ウチの尻尾は敏感なんだからあ〜!」


 俺が、指をうねうねと動かしながら、マリレーネに近づくと、きゃーと悲鳴を上げて走って逃げてしまった。

 あはは、楽しいな。なんだこれ?


「アルノルト、まだまだ俺の知らないことばかりだ。ちゃんと前もって教えてくれないと困る」


「はい、ニート様。申し訳ありませんでした」


 そう言うアルノルトは、ふふっと思い出し笑いした。


「だから、笑うなって。マジで焦ったんだからな! くそ、驚かせやがって覚えていろよ!」


 俺は、アルノルトの背中を一発張り手すると、一緒に屋敷の中に戻った。

 尻尾には、大きな神経があって根元が性感帯だということは、その後アルノルトが教えてくれた。

 今度、試してみよっと!

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