2. ドラえもん

僕は研究室でドライくんの話をした。


 なんか急に思い出したんだけど、昔サザエさんにドライくんっていなかった? ワカメちゃんの友達でなんか前髪で目が見えなくなってるの、というようなことを話すと、


「それ、サザエさんじゃなくてドラえもんじゃないですか?」


と後輩が言った。


 テレビアニメ版のドラえもんは、ドラえもんを演じる声優大山のぶ代の降板をきっかけにかなり意欲的なリニューアルが行われた。「やっぱりドラえもんはあの声じゃないと」という意見が出ることは明らかだったが、そんな後ろ向きな評価を跳ね返すような意志があった。全体の色彩が常にパステル調になるように画面が構成され、これまでにはなかった映画的なカメラワークによる演出がされるようになった。そして毎回落ちのある一話完結のエピソードが連なりながら、キャラクターどうしの人間関係が進展していくという、ギャグものとストーリーものの折衷のような凝った形式へ移行した。


 ドライくんはそのリニューアル後第二話目に登場したのだという。


 のび太はまっ先にしずかちゃんに新しくできたおもしろい友達、ドラえもんを紹介する。三人はしばらくしずかちゃんの部屋で楽しそうに遊ぶのだが、ドラえもんがトイレにたったすきに、しずかちゃんは


「わたしはいつもみたいにのび太さんとふたりで遊びたいわ」


と言うのだ。


僕はしずかちゃんの気持ちがよくわかる。子供は変化を嫌う。子供はおしなべて保守的で排他的のものだ。


 のび太は驚く。自分が好きなしずかちゃんが、自分が好きなドラえもんを好きになってくれなかったことをどう受け止めていいのかわからない。


 ドラえもんは押入れに入る。


 CM明けて次の日、


「のび太さーん」


としずかちゃんが駆け寄って来る。


「インコのピーちゃんが逃げちゃったの。変だわ。窓も鳥カゴも閉まっていたはずなのに」


「ぼくも探すの手伝うよ。ピーちゃんの特徴は?」


「足にリボンがついてるわ」


のび太たちは午後中ピーちゃんピーちゃんと叫びながら歩き回るが、当然そんなやり方が小鳥が捕まるはずがない。


「ドラえもん、なんかいい方法ないかなー?」


ドラえもんはたずね人ステッキを取り出す。


「このステッキは70%の確率で、探しものの方向に倒れるんだ」


と説明し


「ピーちゃんのいばしょをたのむ」


とドラえもんがステッキを倒す。


「こっちだ」


ステッキの示した方向に進んでいくと三叉路に行き当たる。またドラえもんがステッキを倒した。


「こっちだ」


また三叉路に行き当たる。ステッキを倒す。


「こっちだ」


また三叉路。


「同じ場所に戻ってるじゃないか」


「しようがないだろ。70%なんだから」


湯気を立てて言い争う二人のところにふらっとドライくんが現れる。ドライくんは鳥かごをぶら下げている。


「変なんだ。僕が飼っていた文鳥はもうだいぶ前に死んでね。空っぽの鳥カゴだけ軒下にほっぽってあったんだ。そこにこの鳥が入ってたんだよ」


鳥かごを差し出すドライくん。


「そのインコ、ピーちゃんといって、ぼくのともだちのペットなんです」


とのび太が言う。


「そうかい。じゃあたのむよ。元の飼い主に届けてくれないか。鳥かごは君にあげるよ。返さなくていい」


「あ、ありがとう……」


のび太はおずおずと鳥かごを受けとって抱きかかえる。


 軽快な音楽が流れピーちゃんを手に乗せてエサをやりながら戯れるしずかちゃんが映る。


「ドラえもんが探してくれたんだよ」


誇らしげに言うのび太。


「ありがとう。ドラちゃん」


「ドラちゃん?」


「ドラえもんだからドラちゃんでしょ」


「うふふ」


しずかちゃんが笑うとドラえもんとのび太は目を見合わせる。


 後輩が話したのはそんなような話だった。

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