ドライくん

阿部2

1. サザエさん

 ドライくんは丸顔に前髪をざくざく垂らして目もまゆ毛も隠している。いつのまにか見なくなった。僕が子供のころは日曜日だけじゃなく火曜日にもサザエさんをやっていた。だから今思うと火曜日のサザエさんにしか出ないのかもしれない。


 ドライくんは友達Aみたいな感じでこんな風だった。


 帽子をかぶった波平がワカメに声をかける。


「デパートに行くぞー。ワカメも来んかー」


「行くー」


 行き掛けに波平は知り合いらしき人に会い、あいさつをする。その人はワカメに気づくと、こう言った。


「おや、お孫さんですか。よかったね、やさしいおじいちゃんで」


「えーっ」


と驚くワカメ。


 『ワカメ、お父さん似』とタイトルが出る。


 場面変わって磯野家に若いお母さんが訪ねて来ている。


 赤ちゃんを抱っこさせてもらい、ごきげんなワカメ。


「かわいいね。お母さん似だね」


とフネが赤ちゃんを覗きこむ。


「男の子なのにお母さん似なの?」


「昔っから女の子はお父さんに似て、男の子はお母さんに似るって言うからね」


「じゃあ私もいつかお父さんみたいになるの」


「そうかもしれないね」


「えーそんなのいやだあ」


 ワカメは波平と同じ髪型になった自分を吹き出しのなかに思い浮かべた。


 フネはきょとんとする。


 夜、フネはそのことを波兵に報告したようだ。


「なに。ワカメがそんなことを言っとるのか」


と波兵が着替えながら相づちを打つ。


「ええ」


「まあ気にすることもなかろう」


再び場面が変わる。


ワカメはドライくんの家へ遊びに行く。ドライくんのお父さんが出迎える。


「いらっしゃい」


部屋へ入るなりワカメは


「いいなあ、ドライくんのお父さんはわかくて、髪の毛もフサフサで」


と言う。


 波兵はハゲてるしシワもよっている。ドライくんのお父さんはこれといって特徴がない。


「早くハゲる人は頭がいいんだよ。頭を使うから早くハゲるんだ」


とドライくんは言う。


「えー、うっそだあ」


 ドライくんはワカメのリアクションには応えず、


「そうそうおもしろい本があるんだよ」


と本棚へ向かう。


 ドライくんが引っ張りだした本の表紙には『宇宙人大』とある。手で隠れていて見えないが、『宇宙人大全』だろうか。


 ドライくんは本を床に置きパラパラとめくりはじめる。ワカメもそれをのぞきこむ。すると、部屋に変わったものが入ってくる。


 それはプルプルしたこんにゃくのように見えたが、ザラザラした猫の舌のようにも見えた。


 そのものがワカメの頭をつかんだ。そして頭をヘルメットのように外して細くて短い白いひものようなものを脳みそに差し込んだ。そのものは


「この一本は、毛じゃなくて虫だよ。抜いたらだめだよ」


と言ってまた頭をカポッと元に戻した。


「ワアーッ」


目を開けて飛び起き、どこかへ駆け出そうとするワカメをドライくんが受け止める。


 ドライくんはジタバタするワカメの肩をしっかりつかみ、


「どうしたんだいワカメちゃん。ワカメちゃん夢をみていたんだよ。ごめんね。僕が変な本読ませたからだね。ほらぜんぜんなんともないだろ。髪の毛もフサフサだ」


と頭をなでる。


 その日、家に帰ってワカメは言う。


「わたしお父さんだーいすき」


「どうしたんだ? 急に」


「だってお父さん、優しいんだもん」


そんなような話だった。

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