癖について
髪の毛を抜いた。
何故抜き出したのか、というのは克明な記憶である。単純明快すぎたともいえる。
私はくせっ毛であったのだ。
ふわふわときれいにウェーブする、やわらかい、一本一本の細いくせっ毛であったのなら、どんなによかっただろう。クラスで仲の良い友人はそんな髪の毛で、とてもきれいだった。ポニーテールが毛先でくりんと巻かれて、お人形のようにかわいかった。
私の髪はあいにく、その正反対であった。言うなれば、縮れ毛だ。指にささるほど硬い、真っ黒な縮れ毛。ぐりんぐりんとうねり、伸びれば四方八方にボリュームだけ増えていく縮れ毛。もさもさと垢抜けない。
嫌だった。今でも嫌だ。
自分のどうにもならないことに腹が立ち、ある日一本、ぐにゃり曲がりくねった毛を、ぷつんと抜いてみた。
透明な皮脂がぬとり、根元であったところについていた。こみ上げてくる胸糞の悪さと吐き気を喉に押し込め、光に透かす。黒々と波打っていた。脂がてらっていた。
気持ち悪い。嫌だ。嫌な髪の毛だ。汚らしい。
こんなもの、すべて抜いたほうがいいでしょう。
一本、また一本と抜く度に、ほんの一瞬だけ電流のような鋭い痛みが頭を走る。でも一瞬だ。後腐れのない痛みだ。
ぷつん、ぷつん、ぷつん、ぷつん
親指と人差し指に絡みつく、「私自身」だったそれは気持ち悪くてしかたない。これはもう過去の産物だ。死んだ私だ。生まれ変わるんだ、わたし。
はらはらとそれは落ちる。
どこも見ちゃいなく、空を這っていたわたしの目玉は机をみた。
私のたくさんの死体が、にこやかに私を見ていた。
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