第13話 奉仕人形——sideバッカス
フェネルを操っていた魔道具が爆発し、耳の周辺が血だらけになったバッカス。
医務室で、医療用魔巧人形に手当を受けた彼は、ユーリに尋ねる。
「痛い……クソっ。ユーリィ殿、あのフェネルとかいう魔巧人形はどうなった?」
「それが、魔道具が破壊されては、追跡は不可能です。ブラッドダガー分隊も完全に破壊されたようです」
「クソックソックソッ」
バッカスは悪態をついた。フェネルに命令しケイを殺害、戻ってからはフェネルを催眠状態のようにして操り、乱暴するつもりだった。
途中で意識を戻し、嫌がるその姿を見て興奮する……そんなところまで想像していた。
しかし、それがどうやら難しい状況になっている。
「これは、ユーリィ殿の失態ですな」
「そうですか? 私の大切な魔道具を粉々にした……バッカス魔導隊長、あなたこそ敵を侮っておられたのでは?」
「何? 貴殿が言い始めたことでは無いのか?」
「だとしても、ろくでもないことを考え失敗に導いたのは、誰でしょう?」
「ぐっ」
バッカスは言葉に詰まる。
確かにそうだ。フェネルを自由に操ることに油断をして、邪念に溺れたのも確かだ。
目の前の焦るケイを見て、嬉しくなってしまって隙が生じ、その結果魔道具の破壊に繋がったのかもしれない。
「この件は、上層部にも伝えておきます」
「ちょっ……待っ……」
ユーリィはバッカスの静止の声も聞かず、部屋を出て行く。
「クソッ。ケイとフェネルめ。たかが人形の分際で……。この苛立ちをどうしてくれようか」
そう言って、バッカスは手を震わせる。
「今日は、久々に人形をいじめて過ごすことにするか」
フェネルの代わりに別の人形に暴力をふるおうかと考えたバッカス。彼はその日の任務を終え、司令部から帰ることにした。
☆☆☆☆☆☆
「おやバッカスさん。お久しぶりです。そのお怪我は?」
バッカスは私服に着替え、人形に対して様々な
店内に入ると、店員の男が挨拶してきたので、バッカスは答える。
「ちょっと任務でな。名誉の負傷ってやつだ、ガハハ。それより、最近入荷したものを見せてくれないか?」
「最新鋭の人形ですな。こちらです」
店主が合図すると、一人の魔巧人形がやってくる。
「いらっしゃいませ、ごしゅじんさま」
肌の露出の多い服装だけど、辛うじてメイドを装っていると分かる。
魔巧人形にしては会話もそれなりにできそうだ。長い髪の毛を揺らすその姿は、今まで見てきたものより随分人間に近い。
「ほう。これはなかなかだな」
「そうでしょう、そうでしょう。最新鋭の魔巧人形でかなり人間に近いと評判の
バッカスは、イヤラシくその人形に視線を這わした。
プロポーションもよく、顔立ちも整っている。肌もそれなりに綺麗だ。
しかしバッカスは、先ほど見たフェネルと比べてしまう。
話し方は流暢ではあるが、ぶっきらぼうなフェネルの方がよっぽど人間らしく話す。
肌のきめ細かさ、見た目の滑らかさもフェネルの方が圧倒的だ。服に隠れている腰のラインだってそうだ。
瞳だってどこなく作り物なのが分かる。一方、フェネルの潤んだ瞳にバッカスは色気を感じた。
とにかく、フェネルは人間にしか思えないほど優れていたが、この奉仕人形はそうではない。どうしてもぎこちなく、人間ではないことを悟ってしまう。
「チっ」
思わずバッカスは舌打ちした。
フェネルに『ご主人様、なんなりと申しつけ下さい』と言われた時はゾクゾクしたものだが、この人形にはそんなことは感じない。
バッカスは、とっととこの人形に自分の欲望をぶつけて帰ろうと割り切ることにした。
奉仕人形とともに部屋を移動し全裸になったバッカスは、すぐに奉仕人形をベッドに押し倒した。
「おふろは、はいらないのですか」
「いらん。このッ人形がッ」
バッカスは荒々しく奉仕人形に馬乗りになり、服を破ろうとした。
フェネルにしたかったことを、この奉仕人形に行うつもりなのだ。
何をするか?
実は、バッカスはケイに知られないように、フェネルの情報を整備部隊を通して集めていた。
身長や体重はやや小柄なものの人間に近い。身体の大きさからすると理想とされるプロポーションであること。
動力源は魔力で、それによって行動する。ただし、運動能力は一般的な人間を遙かに凌駕する。
内部的な機構はハート型の中心部以外に塊が複数あるものの、機能しておらず人間とほど遠い。しかし、外見は徹底的に人間を模している。
呼吸や食事が不要なのに、口はもちろん、気道そして歯や舌がある。体内の塊が、臓器の役割をするなら、すぐにでも機能できるようになっている。
さらに、女性らしく作られており乳房もあるし、排泄や妊娠の必要がないのに、女性器や子宮を模したものが存在している。
人間と同じように男女の営みが可能とのこと。
その事実を知ったとき、まるで奉仕人形だとバッカスがフェネルを馬鹿にしたのだが、ケイはまったく取り合わなかった。
実際、世に溢れる奉仕人形と比べても、その部分の作りは比較できないほど人間に近いという報告があった。
ケイはフェネルに手を付けてないようだ。それを確かめ、自分が最初の男になるチャンスだったのに……その機会は失われてしまったとバッカスは苦々しく思う。
「ハッ。あのままうまく行けば、あの女——
バッカスは奉仕人形の顔を拳で殴ろうとし踏みとどまる。
「はあ、はあ……くぅぅぅ」
しかしバッカスは怒りによる興奮が止まらず奉仕人形の首を締め始めた。
「うぐっ、うぐうっ」
苦悶の表情を見せる奉仕人形にバッカスは興奮を覚える。しかし。
「ピー」
「な、なんだ?」
突然、耳慣れない音が響き、すぐに奉仕人形は冷たい言葉を発した。
「SMもーど に へんこうします」
何か信号のような音を発し、奉仕人形の動きが止まる。
そして、突然暴れだしバッカスに襲いかかった。
部屋の中の空気が変わる。
「なっ!?」
バッカスは慌てて身を引くが遅かった。彼の両頬を、奉仕人形の手のひらが勢いよく叩く。
パァン! という音と共に激しい痛みが走る。
「ぐあっ!」
バッカスはそのまま後ろに倒れた。頬を押さえると熱を持っている。そしてジンジンとした痛みが襲って来る。
混乱するバッカス。何が起きたのか分からなかった。
だが、そんな思考はすぐに吹き飛ぶことになる。
「ご主人さまぁ? じゃあ、はじめるね」
そう妖艶に言い放ち、奉仕人形はいきなりバッカスの上に跨る。
「ぎゃあアアアッ! な、なんだいったい!? やめろ、命令だ!」
バッカスは恐怖のあまり叫ぶが奉仕人形は止まらない。いつのまにか取りだした鞭で、バッカスの胸元を思い切り叩いた。
ビシィ!!
鋭い音が部屋に響く。バッカスは思わず叫び声を上げた。
「ひぎいっ!」
「あはっ、あははっ。あそんでくれるよね? ねぇ?」
奉仕人形はそう言って、彼に「ご奉仕」を始めたのだった。
そして二人がいる部屋で、バッカスの汚い悲鳴が一晩中響くことになったのだった。
その一方で、ケイとフェネルである。二人は相変わらず甘い雰囲気を漂わせながら、のんびりと過ごしていた——。
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