人形使いの俺、お荷物と言われクビになったけど、自由に生きたいので魂を込めた魔巧少女の楽園を作ります。〜え?軍の人形兵器が暴走したって? そんなこと言われてももう戻りません。
手嶋ゆっきー💐【書籍化】
第一章 ソウルメーカー
第1話 軍をクビになりました・蠢く陰謀
「ケイ・イズルハ! お前はクビだ! 今すぐ、司令部を出て行け! また、お前の管理しているその
戦域から軍司令部に戻ると、バッカス魔道団長が俺たちに恫喝するように言った。
「イヤ」
俺の隣にいる小柄な少女、フェネルがぼそっと言う。彼女は人間ではなく
特殊な土から作られた魔力を動力源とする人形。
しかし、肌は人間と遜色なく息づいているし、顔立ちも人と見分けが付かない。おおよそ、十五、六歳くらいの少女に見える。
小柄な身体に青いドレスを纏っており、その端正な姿は可愛らしいと評判ではある。
しかも、他の魔巧人形と異なり彼女には魂があり心がある。
だからこそ、嫌なことにはそれ相応の態度を返してしまう。それは仕方ないことではあるけど——。
「おい、フェネル、もう少し丁寧にしろとあれほど……。失礼しました。理由は何でしょうか?」
「ふん、無能以外に理由などあるのか? 明日までに荷物をまとめて出ていけ!」
バッカス魔道団長は、そう言うとフェネルに唾を吐き捨てた。
スッと僅かに身体を反らし、なにげないようにかわすフェネル。
彼女はバッカス魔導団長をゴミを見るような目で見返す。
そして眉ひとつ動かさず、冷酷に告げる。
「汚い。お前はマスターの質問に答えるべき。どう見てもお前の方が無能・役立たず・お荷物・ゴ——」
「ちょ……フェネルさん?」
今ゴミって言いかけたよな?
俺は彼女を窘めようとするが、時すでに遅し。
バッカス魔道団長は真っ赤な顔をして、わなわなと腕を震わせていた。
「おま……ふざけんなよ!? たかが土人形が。人間様に楯突くのか?」
バッカス魔道団長は壁に立てかけてある剣を手に取ろうとした。
しかし、その手が途中で止まる。
フェネルが瞬時にバッカス魔道団長の元に移動し、剣と彼の間に割り込んだからだ。
人に認識できないほどのスピードで動作する。
フェネルのスキル「剣聖の魂」によるものだ。
「私は土人形じゃない。完全に自立行動が可能な、マスターによって生み出された
バッカス魔道団長はゆっくりと顔を上げ、冷静さを取り戻したのか溜息をつく。
フェネルを無視して、俺に向き直り口を開いた。
「動作に到ったのはそのフェネルとやらの一体のみ。今は魔族と戦争中なのだぞ? 悠長に土人形遊びをやっている暇は、我が帝国には無い」
「……遊び」
俺が言い淀むと、俺の隣に戻ったフェネルが口を開く。
「マスターのおかげで劣勢だった南方地域の戦況が持ち直した。魔巧人形を何体投入しようと苦戦が続いていた地域で。マスターはすごいのですッ」
フェネルは、胸を張り鼻の穴を膨らませ、ドヤ、と言わんばかりの顔をしていた。
いや、すごかったのはフェネルなんだけどね。
俺が初めて魂を与えることに成功した魔巧人形、フェネル。
彼女は自ら考え、話し、行動する。
やや小柄であることを除き、人間と見分けが付かない。
しかしひとたび戦場に出れば、スキル「剣聖の魂」を行使し敵をなぎ払う。
「それはたまたま、わが軍の魔巧人形の動きが活性化しただけだ。偶然だ。そもそも、たった一体で何が出来ると思っているのだ? そんなガラクタしか作り出せないお前より、もっと強力な人形使いが現れた。彼の希望もあり、無駄なスキル持ちは排除されることになったのだ」
それを聞いて、フェネルがぽんと手を打つ。
「じゃあ、私がその新入り人形使いの息の根を止めれば、マスターは——」
「おいやめろ」
フェネルは冗談を言わない。
本当にやりかねない。
「ゴホン。とにかく……ケイ・イズルハはクビ、そのフェネルとか言う
全ては決定事項とのこと。
俺はそんな経緯で、軍をクビになった。明日には軍施設から出て行かなくてはならない。
いくらなんでも急すぎるだろうと思ったのだが、既に俺は宿舎から追い出されてしまったのだった。
☆☆☆☆☆☆
「マスター」
司令部出入り口の門から出ようとすると、フェネルが俺を呼び止めた。
俺を見送りに来てくれたのはフェネルだけだ。
フェネルは感情の揺らぎが見られず、顔に表れない。
しかし、今俺の前にいるフェネルは心なしか切なげな表情に見えた。
いや、気のせいだな。
「達者でな、フェネル。新しい上官の指示に従うように」
「それは、命令ですか?」
「命令ではない。もう軍籍も失っているし、俺は既にフェネルの上司ですらない。もう俺の言葉を聞く必要は無いんだ」
「……イヤです。マスター」
「決まったことなんだ。もう、どうしようもない。俺が不甲斐ないばかりに……すまん」
フェネルの頭を撫で続ける。
「俺はただ、フェネルに幸せになって——」
幸せになって欲しいだけなんだ。
俺は言いかけてやめた。
兵器として魂を与えたことに、俺は引け目を感じている。
戦争が終わったら彼女は自由になれるのだろうか?
もし叶うなら、いくらでも面倒を見てやりたい。
「マスター。泣かないで」
「え?」
俺は涙を流していたらしい。
フェネルは俺に抱きついてきて、指で頬を伝う涙をなぞった。
彼女から優しい温かさと、柔らかさが伝わってくる。
フェネルから感じる温もりは、もはや人間と同じだ。いや、俺にとってはそれ以上に温かく感じる。
「マスター、すぐにお迎えに参ります」
「うん? それどういう……?」
「では、失礼いたします」
俺の問いに不敵な笑みを返すフェネル。
スカートをつまみ、頭を下げ立ち去っていく。
なんだかすごく嫌な予感がするのだが……きっと気のせいだろう。
俺は軍司令部を後にした。
☆☆☆☆☆☆
しんと静まり返った、ケイたちが立ち去った部屋の奥から一人の青年が現れる。
短めの茶髪をかき上げながら、青年は口を開く。
「バッカス魔道団長、あの者を追い出してくれて感謝します」
「これでよかったのか?」
「はい、問題ありません。もっとも、どういうわけか彼がいた地域の魔巧人形が活性化していたという事象は気になりますが」
「報告にあったアレか? あんなものは偶然だろう? もし事実だとしても、得体の知れない力を個人が持つことは危険だしな」
「そうですね、反逆の芽は摘んでおきませんと。約束通り、処理の後はあの人形を好きにして頂いても構いません」
「あの生意気な土人形を虐めてやりたいと思っていたから助かる。どうせ人間じゃないから法も関係ないしな。まずはひん剥いて裸にしてみるか? くくっ」
そう語るバッカス魔道団長の口元が歪む。下卑た笑いを隠しきれないようだった。
彼の様子を見て、青年もまたニヤリと口角を上げる。もっとも、その笑みはもっと違うところに向けられているようだ。
しかし。
いきなり彼らの思惑が崩れ去ることなど、当人たちは想像していなかった。
ケイの能力の本当の意味に気付いていないことが、彼らを窮地に陥れる。
もちろん、今は誰も気付いていないのだが。
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