飼い猫
(出囃子)♪っででんでんでんつくでんでん♪
その昔、江戸時代には昼の日中から屋台が出ておりまして、隠居暮らしの町人やどこかの遊び人、と言いましても金さんではありませんのですが、今で言う家が中途半端に金持ちなニートのことでございますな、そいう人たちがいい心持ちで持て余す時間を潰しておりました。
暇を潰すという点では同じですが、大店(おおだな)のご隠居さんとくれば暇の潰し方がちと違います。
お互いの屋敷へ行き来し、自慢の骨董や掛け軸などのコレクションを見せ合い、へしあい、引っ付きあい…。いやいやそんないちゃいちゃはしないのでしょうが、とにかく自分の趣味を披露したり、奉公人を連れて花見や芝居、たまには色気のあるところに行ったりとお金の掛かる暇潰しでございます。
ところが同じ町内で共に大店と言われる呉服屋と木綿問屋の長兵衛さんと清右衛門さんは、二人とも隠居暮らしで猫好きの仲のよい茶飲み友達。今日も清右衛門さん宅で猫の話で他愛の無いおしゃべりが始まります。
長兵衛;清右衛門さんや、あんたってぇ人は猫くさい人だねぇ、どうも。
清右衛門;そうかい?!確かにさっき猫にエサをやって抱いていたがねぇ・・・。でもそりゃお互い様だろ!?
長;そうじゃぁないよ!お宅の末っ子のおよねちゃんが嫁に行ったってぇのに、あ
たしにぁ何の話も無しに。あたしとあんたの間柄で、猫くさいじゃぁないかっ
て言っているんだよ。
清;それを言うなら、水くさいでしょ!
長;そうだったかねぇ・・・。
言われてみればそれでもよさそうな・・・。
確かに。
清;あきれた人だねぇ。
いくら猫が好きだからって、言葉まで猫に置き換えちまうなんてどうも。
それじゃぁどうだい、ここはひとつ言葉遊びなんぞしようじゃぁないか!
ことわざやもののたとえに使われてる事物を猫に置き換えて、その云われ・道
理をこじつけるてぇのどうだい?
長;おや、そりゃぁ面白そうだねぇ。
清;よし、それじゃぁあたしからいくよ!
え~・・・『猫の耳に念仏』
長;なんだいありがちだねぇ!
大体道理は察しがつくよ。
猫に念仏を聞かせると片目だけ開けて怪訝(けげん)な顔されることから、『相手
に興味のないことを言うと不機嫌になる』ってぇ例えだね!?
清;う~ん深いねぇ。
でも単に『無駄』の意味だったんだがねぇ。
長;なんだいそりゃぁ。
それじゃ馬のままでもいいじゃないか、えっ!?
じゃぁ今度はあたしが・・・。
え~、う~『隣の猫垣に猫立てかけた』
清;なんだい早口ことばじゃぁないか。
『猫垣』ってぇことがあるかい!?
しかも『猫立て掛けた』って、一体どんなだい!?
長;猫垣に立てかけるのもやっぱり猫で、猫がいなきゃ私も張りがない、『猫は石
垣、猫は城』ってぇ言葉もあるように、うちの商売だってそうだぁねぇ。
番頭や手代がいるから商売ができている。ねぇ。
そして私も猫がいてくれるから癒される。ねぇ。
人も猫もいなかったら困るってことのたとえだぁ、なぁ!?
清;なぁるほど。『猫は石垣、猫は城』。
いい言葉だねぇ。
長;おいおい、あたしが言ったのは『隣の猫垣に猫立てかけた』だよ。
そっちに関心してどうすんだい!?
清;そうだったそうだった。失礼、失礼。
じゃぁ、あたしの番だね。
え~・・・『猫持ちは喧嘩せず』
長;あ~、まさに私たちのことだねぇ。
儲けなんぞ度外視して猫に癒されてますからなぁ。
清;そうですなぁ・・・。
おっと噂をすれば猫ですよっ。
・・・うちの歌麿もだいぶ年を取りました、なぁ、歌麿。
(と言いながら清右衛門が歌麿の尻尾に手を当てた途端に歌麿に手を噛まれる)
長;おやおや『飼い猫に手を噛まれる』ですな。
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