第10話 空高く

僕は無理矢理に庭に連れて行かれた。

すごく嫌だ。

人間が嫌いになりそうだ。


いくら羅奈が可愛くても大好きでも羅奈は人間だ。


僕の心は硬くなって翼も広がらない。

お父さんが大きな声で

「さぁ、クロちゃん!頑張れ!」

って何度も何度も言っているけれど、その声は僕を通り越して消えていく。


雑音のようなお父さんの声。

本当は僕が邪魔なんだ。


僕は小さくなってうつむいたまま、地面のアリを見ていた。

アリは、チョロチョロと歩き回って僕の足の上を乗り越えて行った。


そのアリが僕の足の上を通る時に、アリの心が伝わってきた。

「おや?カラスだ。この通り道のおいしい匂いを消すような足跡付けてくれるなよ。」


アリも僕が邪魔なんだ。

僕は悲しくなって小さな声で「カァ‥。」って言った。


その時、空から大きなカラスの鳴き声が響いたんだ。

僕は空を見上げた。

母さんだ!



母さんは空を、横切るように飛びながら

「カァー、カァー、カァー、カァー!」って叫んだ。


僕の悲しげで小さなため息みたいな鳴き声が聞こえたんだ。

母さんには聞こえたんだ。

母さんにはわかったんだ。


その時、僕には母さんが僕のために力一杯、叫んで飛んでいるとわかったんだ。


僕は羽ばたいた。思いっきり羽ばたいた。


体がフワリと持ち上がったけれど構わず羽ばたいた。

体が家の屋根まで上がったけれど羽ばたくのをやめなかった。


その時、母さんが向こうから戻って来た。

「カァー!」って叫んだ後、僕の前を通り過ぎた。

それが合図だったかのように僕は母さんの後に続くように飛んでいた。


僕はいつの間にか、空高く飛んでいた。


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