第4話 飛ばない

 羅奈は6才の女の子でいつも可愛らしいひらひらした洋服を着ている。


「クロちゃん、飛んでごらん!ほら、怖くないよ。クロちゃん。」


 羅奈は毎日僕が飛べるように手伝おうとする。

「クロちゃん、頑張って。ほら、羽を広げてごらん。」

 羅奈は両手を広げて羽ばたく真似をして見せる。


 僕は飛びたくなかった。


ピョンと、両足で床を蹴って寝ているロゼの頭に乗った。

 ロゼが片目を開けて言った。


「ここは最高さ。」


僕は「そうだね。最高だ。」と返した。


 夕食の時間は、羅奈の家へ行ってみんな集まってご飯を食べる。僕専用の席が準備されている。

「クロちゃんの席は、ここよ。」

 初めてみんなでご飯を食べる日に羅奈が決めてくれた。

 でも僕は食べながら人間みたいにじっとはしていられない。それにみんなが

「ほらクロちゃん、これを食べてごらん。美味しいよ。」って人間の食べ物をくれるから嬉しくてついテーブルの上で歩き回ってしまうんだ。それでもみんな、

「クロちゃん、かわいい。」って言って背中を撫でてくれる。


 僕は嬉しくてずっとここにいたかったんだ。

 

 それなのに飛べるようになったら山へ帰すとおじいちゃんとお父さんが話してたのを聞いてしまった。


 僕は飛びたくない。

 だから飛ばない。



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