第169話 熱田視察(6)
熱田視察の最終日。
とは言っても、俺たちが熱田を立つのは明日の午前中となる。当然、
昨日までで熱田視察の課題はほとんどクリアしていた。
唯一クリアできていないのは小早川さんと
『桔梗も小早川さんのことを憎からず思っています』
『絶対に上手く行きます』
『桔梗も照れているだけです』
と言うことだったのだが、ここまでの経過は芳しくない。
一回目は二人を隔離して食事をする個室デートを行った。
お互いに久しぶりだったこともあり、会話も弾むことなく終わってしまったように映った。
だが、当の小早川さんは十分に楽しかったようで終始上機嫌だった。
初日と考えればまずまずの出だしだったと思う。
二回目は新型船の航行テストを兼ねた冬の海での船上デート。
荒波のなかでの吊り橋効果を狙ったのだが、こちらの思惑に反して小早川さんが先にダウンしてしまうという結果に。
だが、ダウンした小早川さんを桔梗が献身的に介抱していたので、二人の仲は親密になったと思う。
結果オーライだろう。
当の小早川さんも、桔梗の優しさと面倒見の良さに触れ、「益々惚れました」と興奮気味に喜びの言葉を口にしていた。
三回目は漁港で水揚げされたばかりの魚介類を眺めながらの早朝ショッピングデート。
身を切る寒さのなか、二人で身を寄せ合って食材を買い求める姿は
買い求めた魚介類を二人で仲良く調理していのもいい。
こちらも小早川さんからは、「桔梗さんの家庭的な一面をみれてとても心が暖まりました」と泣いて感謝された。
そして最終日となる四回目の今日、海岸線を散歩し十分に冷えたところでの鍋料理デートを計画している。
計画した恒殿と小春も一段と気合が入っていた。
極寒の海に潜って、デートの様子を逐次報告するのだと張り切っている。
さらに、二人きりで鍋料理を食べる予定の部屋の盗聴と監視をする要員も
盗聴、監視する忍者が状況を書き留め、その書状を逐次伝令係へと渡す。
あとはリレー形式で書状が俺と一条さんの元へと届く手はずである。
タイムラグは十分もないはずだ。
俺は忍者たちの配置と伝令組織を書き加えた地図を六人掛けのコタツの上に広げる。
地図を囲むのは、俺と恒殿、一条さんと珠殿、そして小春の五人である。
「あの、海のなかに人が配置されているように見えるのですが……」
珠殿が蒼ざめる。
「そんなことはありませんよ」
「そうですよね」
安堵する珠殿に言う。
「任務中は海中にいますが、いまはまだ陸です」
「え……?」
絶句する珠殿をよそに、一条さんが広げた地図に筆を伸ばして書き込む。
その様子を見ていた珠殿の目が大きく見開かれた。
息を飲む珠殿の隣で一条さんが淡々と説明する。
「ここと、ここには既に楽隊を待機させてある」
小早川さんと桔梗が食事をする予定の隣の部屋と冬の海を眺めながら別れを惜しむ予定の場所である。
一条さんに同行した家臣のうち、笛や
ムード音楽担当である。
「既に……」
珠殿の眼の前で無茶をすることは少ないのだろう。
一条さんの無茶振りになれている俺とは違って、相当驚いているようだ。
珠殿が抱えているであろう心配を俺が変わって聞く。
「楽隊を配置するのは少し早すぎませんか?」
「そうですね、小早川様と桔梗が海岸を散歩するのは一時間以上後ですね」
恒殿が続いた。
「土佐の海で鍛えた強者たちだ。問題ない」
「土佐って南国のイメージでした」
「本人が大丈夫だって言ってたよ」
「分かりました。ではこの配置で作戦を決行すると言うこと問題ありませんね」
珠殿を除いた全員が深々とうなずいた。
「今日が小早川さんと桔梗のお見合いの最終日です。全力で盛り上げましょう」
「小早川さんと桔梗さんには幸せになって欲しいねー」
と一条さん。
「正直なことを言えば、昨日までの桔梗の反応を見る限りでは、二人が幸せになる未来は難しそうですよ」
「俺たちが弱気になっちゃダメだろ」
「まあ、そうですね」
「半兵衛様、無理強いはしないという約束だけは守ってくださいね」
苦笑する俺に恒殿が笑顔で釘をさした。
こうして、小早川さんと桔梗のデート最終日がスタートした。
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あとがき
■■■■■■■■■■■■■■■ 青山 有
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