10-10
「大藤君すご~い、こんな事出来るんだね~」
放課後、玲央君の図案を見た委員長から嬌声が飛ぶ。
「いや、別に、そんな大したもんじゃない、から……」
若干しどろもどろと言った感じで、玲央君が委員長に言葉を返す。私達と話す時とは随分差がある。慣れていない女の子と話す時にはこうなのかしら? と自分と玲央君の以前の会話を思い返してみるが、よく分からなかった。
それもそうか。
転ぶのを助けて貰った次の日に、屋上でクリームパンを恵んで貰ったのが、初めての会話らしい会話である。その次がスティグマの打ち上げの席での会話だ。慣れる慣れない等、一足飛びにしてしまった感がある。
それを今になって、ちょっとだけ、勿体無かったかなと思うのは、やはり贅沢なのだろうか?
「でもよぅ、こんなん実際に作れんのかよ? 俺工作とか苦手なんだけどなぁ」
川口君の発言に対し、玲央君は、いや、細かい作業からしてけば、まぁ、大丈夫だと思う、と、やはりしどろもどろに言葉を返している。
別に女の子に緊張していると言う訳でも無いらしい。それとも、川口君が相手だから話し辛いのだろうか? 同じサッカー部でも、すぐに打ち解けられた祐一君とは随分な違いである。
「川口にはそこまで期待してないから大丈夫よ」
道子がけらけらと笑う。
「ああ、そうかよ。それはどうも」
「でも、大藤君のこの図案は凄いね。これがあるだけで、今後の作業の目安が立てやすくなるよ」
電卓を隣に置いた塚君が、玲央君の図案を眺めながら、穏やかに微笑む。
「うっし、そんな感じで、道具関係は大藤と言う素晴らしい武器が手に入った。でも、とりあえずコンセプトが決まってないから、折角作って貰ったんだけど、すぐには動けないんだよね。どっちかに決めたいと思うんだけど、いいかな?」
「冥途なんだろ? じゃあ、和風の方がイメージ合うんじゃねぇの?」
「川口の言う事も一理あるけど、私は、これはクラスで議案として掛けて、アンケートを取る方がいいと思う。ここのメンバーだけで考えちゃうと、後で反対案の希望者が多かった時に、サボる人が増えちゃう気がするんだ」
「委員長の意見採用! そんじゃ、明日の朝のHRでアンケート用紙配って、昼休みまでに回収。帰りのHRまでに発表しよう。この集計は私と和葉でやるわ。いいよね和葉?」
「うん、任せて」
寧ろこう言う作業位しか、私の出番は無い気がする。
「もし和風にするんだとしたら、出すお菓子も和風にした方がいい?」
「道子、あんた和菓子も作れるの?」
「流石に和菓子は無理よ。でも、例えばケーキとかのスイーツでも、生クリームにあんこを混ぜた物をベースにしたり、アクセントで和っぽい物、例えばお皿を変えて見るとかってすると、随分雰囲気が変わるものよ」
「あんこと生クリームって、混ぜて美味いのか?」
「川口、クリームあんみつって食べた事無い?」
「クリームあんみつ? あんみつ自体食った事はねぇからなぁ」
「あんこと生クリームって、最初は驚くけど、結構美味しいんだよね」
会話を引き継いだのは、意外にも塚君だった。
「塚君スイーツとか興味あるの?」
委員長も私と同じ事を思ったのだろう。
「うん、うちは姉が3人いるから、みんなよく買ってくるんだ。それで好きになった」
「塚君、お姉ちゃんが3人もいるんだ」
私は思わず納得してしまった。
成程、お姉ちゃんが3人もいると、こう言う男の子が出来上がるのか。だけど、もし自分が塚君の姉ならば、こんな弟がいたら、可愛くて仕方ないかもしれない、とも思う。
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