10-5
「それじゃ次は、C」
「シー?」
頭に浮いた疑問符を、隣に居た玲央君が拾ってくれる。
「Cは、日本語のドの事を指す。これもGと同じく、よく使うメジャーなコード。まず、1フレット目の2弦を、人差し指で押さえる」
「1フレット目、2弦、人差し指……」
声に出し、一つ一つ確認しながら、弦の上に指を滑らせる。
「そのまま、2フレット目の4弦に中指。3フレット目の5弦に小指。最後に、薬指を6弦に軽く当ててミュートさせる」
「玲央君、もうちょっとゆっくり言って、分かんなくなってくる」
「そうだね。大藤、一個ずつ確認しながらゆっくり頼むわ」
「じゃあ一個ずつ。最初に言った1フレット目の2弦に人差し指。これはいいか?」
「うん、OK」
「うん、大丈夫」
私と紗絵の声が綺麗に重なる。
「2フレット目の4弦に、中指」
「……4弦に、中指ね。いいよ」
「ちょっと待って!」
紗絵はいいかもしれないが、私は宜しく無い為、待ったを掛けさせて貰う。
「中指を、4弦の……」
弦を目で数え、上から3番目の弦に中指を添える。
「うん、いいよ」
「そんで、3フレット目の5弦に小指。その上の6弦に薬指」
「大藤、これは纏めてぼすんって押さえちゃっていいの?」
「見せて」
玲央君が私の隣を立ち、紗絵の近くへと寄って行く。
「うん、大丈夫。だけど、この指は軽く押さえるだけ。6弦はミュート」
「ミュートって事は、音を鳴らさないようにするって事?」
「そう。これを押さえて鳴らすと、ConGって言う、別のコードになる」
「そんなちょっとで別の音になっちゃうんだ。何か不思議だわ~」
玲央君と紗絵の密な話し声が聞こえてくる。
「それで鳴らしてみて」
「ほいよ」
紗絵のギターから、乾いた音が零れ出る。それを聞いて玲央君は、うん、大丈夫、と頷いた。
「玲央君、これでいい?」
寂しくなった、と言う真っ当な意見には勿論胸の内で眠って貰いながら、私は必死に押さえたCコードを見せる為玲央君を呼んだ。
再び私の近くまで来た玲央君は、私の手を見て、もっとこう、と先程同様に手首を前に出させた。
「鳴らしてみて」
言われるがまま、上から順にピックで弦を弾いて行く。
「もっと強く押さえてみ。指に跡がつく位」
どうやら上手く音が鳴らなかったようである。指示通り、強く強く、指先が居たくなる位強く弦を押さえつける。
「もうちょっとフレットに近い位置を……」
弦達とディープキスを交わす私の指先を、玲央君が横にスライドさせる。
――痛い……。
皮膚の摩擦による刺激が、指先から伝わってくる。
「鳴らしてみて」
再びピックを滑らせると、漸く玲央君から、うん、OKと言うお言葉を頂いた。
「指痛いか?」
「ヒリヒリするけど、まだ大丈夫だよ、頑張れる!」
多少の虚勢を張って笑うも、赤くなった指先を見て少し溜息が出た。まだギターを触ってから10分も経って無いと言うのに、自身の情け無さに呆れると共に、自分には向いて無いんじゃないか、と言う思いが早くも首を擡げる。
「大藤、次は?」
先を急かすのは、私の気も知らずにワクワクとした表情を浮かべている、私の親友である。
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