第12話 束の間の再会

 同時刻、ディーンは不思議な感触を味わった。急に空気が冷たくなったのだ。

「あれ?なんか寒くなりましたね、センブリさん」ディーンはのんきだった。勿論レベーカたちが近くにいることなど、彼には気づかない。

「ちっ」センブリは珍しく感情をあらわにして舌打ちした。

「まったく、せっかくの保護呪文が」

「え?」ディーンはセンブリの言葉が聞き取れなかった。

「なんか、呪文がかかっていたんですか?」

「……」センブリは答えなかった。その代わりに馬車の本来ならば馬がいる部分に両手を重ねて置き、力を込めた。

「……」

「何かの呪文ですか?手伝いますか?」ディーンは訳が分からなかった。

「ディーン!!!!!!」

 彼は振り返った。一瞬だが、彼は彼が心から愛する者の声が聞こえた。しかし振り返った時、もうすでにバスはそこから遠ざかっていた。

「はあ」センブリがため息をついた。

「これでよし」馬車は再び動き出し、以前感じた寒さはもう消えていた。

「レベーカ?」彼は馬車から身を乗り出そうとした。

「アキス」彼はセンブリがかけた呪文を解き、馬車から身を乗り出した。見ると、二階建てのバスから大きく手を振っている人が見えた。ディーンから見ればそれは米粒くらいの大きさだったが、それがレベーカだと彼は確信した。

「レベーカ!!!!!!!」彼は身を乗り出した。

「センブリさん、僕は降ります」彼は呪文を唱え、馬車の荷物台からそのまま飛び降りた。

「駄目だ、単独行動は」センブリが手錠の呪文をかけようとしたが、

「フィール」ディーンは保護呪文で跳ね返した。

「レベーカ」

レベーカもキッシンジャーを連れ、バスを降りていた。シドもそれに続いた。

「ディーン、ああ、ディーン」彼女は半分泣きながらディーンのいる方向へと全速力で走った。

「まったく、世話係の気持ちになってくださいよお」センブリは馬車のまま移動しようとしたが、ディーンが地面に氷を作った。

「おっととっと」センブリはその氷の地面でよろけそうになった。ディーンは靴の底に空き缶をくっつけ、スケート靴を呪文で作った。彼は氷の地面の上を一直線に滑って行った。

「レベーカ」彼は呪文で地面に氷を作りながら高速で移動していた。センブリは動けないと悟り、馬車から降りたが、地面は凍っていてなかなか前に進まなかった。

「レベーカ、キッシンジャー様、シド」彼はレベーカに向かって行っていた。その時。

「あいよごめんよ、坊ちゃん」マンデイと同じ仮面をつけた黒服の男が現れた。しその男が一瞬でディーンの首の後ろをたたいた。

「え?」

ディーンは一瞬でよろけ、足に力が入らなくなった。

「すいませんねえ、坊ちゃん。こんなところで変なことされちゃあ困りますよ、大事な人質なんですからねえ」聞いたことのあるだみ声と鈍りだった。

「お……前……まさか……」ディーンは呼吸がしづらく、ハアハアと息を粗くした。

「坊ちゃん、単独行動は困りますぜ」仮面の下の顔は見えないが、誰だかわかる。身長は百五十センチほど、少し小太りで、丸々としている。

「……ドブネズミ」

 ディーンは記憶を失った。


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