第4話 テレビの中から誰かが見ている!

 このお話は、私が高校2年生の時に体験したことです。


 学生時代の私は、とにかく全く勉強をしない頭の悪い少年でした。学校から帰ると、お金を稼ぐためにバイトに行き、家に帰って晩ごはんを食べた後に勉強を……。しません。


 当時私は、シルベスタースタローンとロックンロールが大好きで、憧れのスタローンよろしくひたすら筋トレをするか、たいした弾けもしないギターをジャカジャカ掻き鳴らしては「イエィ!」とか「ウオゥ!」だの言って、馬鹿な時間を過ごしていました……。


 一風呂あびてゴロゴロしていると、ちょうど23時ぐらいになります。当時は、少々大人な内容の番組が放送されていました。私はこっそりと、二階の一番奥まった部屋に向かいます。その番組を見ているところを、家族に見られたくなかったんですね……。同級生の男子も皆一様に見ていました。私も恥ずかしながら、その一人です……。そして勉強をする間もなく眠くなり次第、一階にある寝室へ向かい、高いイビキでぐっすりです。なっさけなー……。


 ──そんなある日のこと。私はいつものように、ルーティン化された、だらしのない時間を過ごしていました。ふと時計を見ると間もなく23時。いつものように、二階の一番奥まった部屋に向かい、テレビの電源を入れました。畳の上でゴロゴロしながら、ただただ、流れ行く時間を無駄に過ごしていました。


「ふあぁ……。寝るか……」


 大あくびをして、時計を見ると深夜2時前。眠気もピークに達し、もうそろそろ眠ろうと思いました。テレビのリモコンを手に取り、画面に向かって電源のスイッチを押しました。テレビの映像がグニャリと中心に集まった後、パッとフラッシュして、電源が切れます。昔のブラウン管のテレビは、こんな感じです。後は灰色の画面に映るのは、鏡のように画面に反射した自分の顔……。


「んっ!何だ今の!」


 電源が切れて灰色の画面になったとき、ほんの2、3秒ほどですが、自分ではない別人の顔が映っていたような気がしました。今、画面に映っているのは、キョトンと目を円くして固まっている自分の間抜けな顔……。


 ──もう一度やってみるか……。


 私は再びテレビのリモコンを手にして、電源を入れて、そして電源を切りました。


 画面がパッとフラッシュして電源が切れて、灰色の画面になる……。


「うわっ!」


 やっぱりさっき見た顔は気のせいではなかった!灰色のブラウン管の画面に映るモノクロの顔。頬の痩けた、やつれた顔の中年男性。落ち窪んだ底なしに黒く深い相貌で、こちらをジッと見ている……。やはり3秒ほど経つと、灰色の画面の中に吸い込まれるように消えていきました。


 目が合った……。吸い込まれそうなほど深く暗い相貌。冷や水を背中に注ぎ込まれるような寒気がした……。確かに見た。目の錯覚なんかじゃない。しかし私はその恐怖の現実を認めたくありませんでした。


 ──もう一度やってみよう。それで何もなければ、目の錯覚なんだよ。いつまでも夜更かししているから、目が疲れているだけなんだよ。


 私は心の中で、自分に言い聞かせました。そして再びテレビのリモコンを手にして、電源を入れて……。切った。


 いる!俺を見ているじゃないか!恐怖心は一気にピークに達した。三度目の正直。この瞬間、見間違いなんかじゃないことが確定した。


 怖い……。逃げ出したい……。しかし今ここで逃げ出したら、その存在を認めたことになる。


 認めたくない!


 私は、テレビの画面からその不気味な男が消えるまで、テレビの電源を入れては消すを繰り返すことにしました。冷や汗で湿った手で、再びリモコンを握る。覚悟を決めて……。


 電源を入れて、消す!


 いる!


 電源を入れて、消す!


 いる!


 もう意地の張り合いです。その存在を認めてしまったら、テレビをはじめ、その部屋を不気味な男に乗っ取られてしまうような気がしました。


 電源を入れて、消す!


 いる!


 電源を入れて、消す!


 いる!


 同じことを10回ぐらい繰り返すと……。


 いない!


 不気味な男は、テレビの画面から消えました。私はその存在と、恐ろしいものを見てしまった現実を認めたくないがために、テレビの電源を入れては消して確認を繰り返したのですが、返ってその行為が、その男が確かにそこにいた現実を確たるものにしてしまったような気がします……。


 ハッと我に返った次の瞬間、押さえ込んでいた恐怖心が一気に爆発し、気がつくと私は部屋を飛び出していました。


 私は一階にある寝室に入ると、布団に潜り込み、恐怖にガタガタと震えていました……。


 チュンチュンと外から鳥の囀りが聞こえる。気がついた時には、外が明るくなっていいました……。


 その後、あの不気味な男がテレビに現れることはありませんでした。あの男は一体何者だったのでしょう。テレビの電波を介して、一瞬だけ霊界に繋がったのでしょうか。そうだとしたら、あの世の存在が、私達がテレビを見るように、テレビの中から私達を見るということも、あるのかも知れませんね……。






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