第5話 ラブラブさん その壱

 これは、私が小学生の時のお話です。時は1980年代。大変なオカルトブームでした。心霊、UFO、超能力、テレビでは特番が組まれたりして、当時の私はビビりながらもワクワクしながら見ていたものです。学校へ行けばオカルト系雑誌や、心霊写真の本を持ってくる生徒がいて、みんなで廻し読みしては、わいわい騒いでいたものです。


 そんな時代の空気の中、当時、恐らく全国の小、中学校で流行していたのが、コックリさんをはじめとする降霊術です。あれって地域によってなのか、世代によってなのか分かりませんが、他にも違う呼び名がありまして、私の小学校ではラブラブさんと言っておりました。その他、エンジェルさんと言うのも聞いたことがあります。やり方はこっくりさんとほぼ同じなので、ここでは省略いたします。


 私のクラスにMさん(仮名)と言う女子生徒がいまして、霊感が強く大変なオカルト好きでした。その子が休み時間に、ラブラブさんをやり始めたのがきっかけで、その遊びが学校中に流行していったような気がします。Mさんがラブラブさんを始めると、いつも周りには人だかりができていました。何が始まるのだろう、何が起きるのだろう、みんな怖いもの見たさで興味津々です。


 そんなある日のこと、ゾッとするような出来事が起きました。いつものようにMさんと、パートナーのSさん(仮名)が、ラブラブさんを始めました。Mさんはラブラブさんはどんな姿をしているのか以前から気になっていたようで、いつか質問してみようと思っていました。しかし、なんとなく怖いですよね。でも、この日は、いつもより周りに集まるギャラリーも多かったので、勇気を出して質問してみることにしました。


「ラブラブさん、ラブラブさん。あなたはどんな姿をしているのですか?教えて下さい」


 そう言いました。するとMさんとSさんのが握っている鉛筆が動き『隣のクラスの黒板』と、文字を指し示しました。周りで見ていた数人が、ドッと隣のクラスに向かいました。私はそれを見て、みんな揃って何をやってんだかと、少々冷ややかな目で見ていました。しかし次の瞬間、これは普通ではないぞと、驚きを隠せない事態が起きました。先に行った女子生徒が一様に、泣きながら帰って来たのです!


「えっ!なに?どうしたの?」


 その異様な光景に私は何が何だか分からず、泣いている子に聞いてみたのですが、みな口を閉ざして、ただただ泣いていました……。


 ──これはただ事ではないぞ……。私は隣のクラスに向かうのが怖くなりました。しかしこんな時って、逆に好奇心が勝ったりもしますよね。私は後れ馳せながら、隣のクラスに向かいました。


「うわっ!」


 私はゾッとして硬直しました。黒板に物凄く気味の悪い人物が描かれていたのです。そしてその隣に、チョークを持ったT君(仮名)が、何が何だか分からないようなキョトンとした顔をして、立ちすくんでいました……。


 私はT君に質問しました。


「何でこんな絵を描いたの?これ何の絵?」


 そう聞きました。するとT君は……。


「えっ、ただふざけて変な人の絵を描いてただけだよ。逆に僕が聞きたいんだけど何なのこの騒ぎは!」


 T君は訳が分からない様子でした。それはT君だけではなく、そのクラスの生徒全員が、同じ様子でした。当然ですよね。いきなり隣のクラスからドッと人が押し寄せて来て、T君がクラスメイトを笑わせようとして、面白おかしく描いた絵を見て、泣いて帰って行くんですから……。


 しかし気味の悪い絵でしたよ。身体のバランスや顔のパーツのバランスがいびつに歪んでいて、ただ単に、面白い人の絵を描きましたってことで見れば、マア笑えないこともないのですが、それに『ラブラブさんの姿』と言う定義が付くと、その異様な姿から、とたんに怖くなるような感じでしょうか……。


 私は、一瞬、Mさんを初めラブラブさんに参加したメンバーとT君が、みんなを驚かせようとして、あらかじめ打ち合わせをしていたのかな?とも思いましたが、それはなさそうでした。まずT君自身、オカルトには全く興味がない、というか怖がりで、そういうのが苦手です。協力を求められても絶対に断るでしょう。私とT君は幼稚園時代からの友人なので、良く知っております。


 では、あの出来事は単なる偶然だったのでしょうか……。あるいは、何らかのトリックがあったのでしょうか……。うーん……。分かりません。


 その事件でみんなが胆を冷やし、ラブラブさんは終息に向かいました。と、なれば良かったのですが、その事件が呼び水となったのか、更にラブラブさんブームは学校中に拡がっていきました。そうなると学校中が異様な空気に包まれて、中には登校するのが嫌だという生徒も出てきました。そうなると単なる子供の遊びということでは済まされなくなります。先生も動き始めました。私のクラスでは、その後に起きたある事件をきっかけに禁止例が出され、終息に向かいました。そのお話は、次の回で……。


 ※後日、当時の友人から、ラブラブさんをやる際、Mさんは10円玉でやるより、鉛筆でやることの方が多かったよと、連絡がありましたので、最初の投稿では、10円玉を使用してやっていたことになっていましたが、鉛筆でやっていたことに訂正しました。ラブラブさんからのメッセージを受ける際、10円玉を使用する人、鉛筆を使用する人、そのどちらも使用する人と、人によりけりでした。当時の状況や雰囲気を、よりリアルに伝えたいと思う作者の主旨ですので、細かいことではございますが、ご理解いただけましたら幸いです。また、何か当時の状況について、新たな情報が入りましたら、加筆することもあるかもしれませんので、何卒よろしくお願いいたします。






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