第64話 お約束の
「モニカ、コアラのサポートを」
「承知いたしました」
モニカが水の精霊魔法を準備すべく、目を閉じた。
ところが、前を向いたままのコアラが口を挟んでくる。
「必要ねえ。それより、とっととこいつらを仕留めるようにしてくれ」
「分かった」
余程ユーカリの木が心配なのか、コアラが急いている様子。
アリクイもどきがまだまだ地面から出て来るかもしれないってことかな。
コオオオオオ――。
コアラが謎の呼吸法だか何だか知らんが、口から息を吐く。
息を吐きながら、右手を突き出しクイクイっと挑発するように指先をアリクイもどきに向ける。
魔法じゃないの? あのファイティングポーズはまさかの物理?
「コアラ流格闘術 二十四の
な、何じゃそら……。
気の抜ける技名を呟いたコアラが華麗に飛び上がり、アリクイもどきの頭の上に着地した。
そこで両手を広げ、くあああっと口をこれでもかと開き鋭い牙を見せる。
しかし、コアラの威嚇も虚しく、乗られたアリクイもどきが鋭く長い舌をコアラに伸ばす。
更に、周囲にいたアリクイもどき三体が一斉にコアラに向け鋭く尖った長い舌で襲い掛かった。
「もしゃー!」
対するコアラがふわりと浮き上がり、短い後ろ脚を振り上げその場で回転。勢いをつけた右脚で迫るアリクイもどきを蹴り飛ばす。
着地するなり、右手の爪で二本の長い舌を切り裂いて、再びジャンプ。
背面飛びの要領で飛び上がったコアラ。今度は左足を振り下ろし、最初に頭へ乗っかったアリクイもどきの頭へ向け踵を落とす。
コオオオオ――。
またしても不気味な呼吸音が響き、コアラが跳ねる。アリクイもどきが吹き飛ぶ。
あっという間に迫りくる三体と踏みつけた一体を倒してしまった。それだけでなく、コアラはまだまだ襲い掛かって来る他のアリクイもどきを始末していく。
「コアラだけで行けるんじゃないかな」
「初めてみる動物ですが、この舌、切れ味が鋭いようですよ」
足先でちょんちょんと倒れてピクリとも動かないアリクイもどきの舌を突っつくモニカ。
この舌を加工したら道具として使えそうだな。伸縮自在ぽいので、そのまま使って鞭のような武器にもなりそうだし、刃先だけを利用することだってできる。
っと。
まだまだ出て来るようだな。
ぼこぼこと地面が盛り上がって来る箇所が……十五。
うわあ。モグラ叩きみたいだ。
完全に外に出て来る前なら、土に引っかかって身動きが取れないはず。
なら、急いで倒し切ろう。
「モニカ、右側を頼む。俺は左を」
「はい」
二人揃って目を閉じ、それぞれの精霊に呼び掛ける。
「総士の名において依頼する。水の精霊よ。刃となりて切り裂け、ウォーターカッター」
「モニカの名においてお願いいたします。風の精霊さん。ウィンドカッター」
水の刃と風の刃が、頭だけ出て来たアリクイもどきの首をかり取っていく。
これで残るはコアラの傍にいる三体のみ。
「もっしゃー!」
コアラの旋風脚で残りのアリクイもどきも倒れる。
数えるのも大変だけど、合計で20匹以上はいたようだったな。
こんな数で木材を食されたら、一瞬で食い散らかされるよ。気が付いたコアラに感謝だな。
あ、そういや、コアラに聞きそびれていたことが。
「コアラ、どうやって(アリクイもどきに)気が付いたんだ?」
「土の精霊魔法だって言ってるだろ。土の動きを読めばすぐだ」
「あ、確かに。足音も感知できるだろうし、もちろん、地中もだよな」
「おう」
さてと。疑問も解消したことだし、肉を回収するとしようか。毛皮も使えるかもしれないし、終わってみたらホクホクだよな。うん。
問題はこの肉の味だよな……。
「モニカ、アリクイもどきって食べられるのかな?」
「見た事がない動物ですので、何とも……っつ!」
アリクイもどきを見下ろし口元に手を当てていたモニカの表情が急変する。
片目を瞑り、険しい顔をしたモニカが親指と人差し指でぷるんとした唇を挟む。
「……何か来ます。数が……多いです」
「っち! 遅かったか」
モニカに続き、コアラもふがあと地団駄を踏んで悔しがる。
遅かったって? アリクイもどきを仕留めるのがか? あっという間に倒したんだが……。
しっかし、どうしたってんだ。二人とも何かを感じ取っているけど、俺にはまだ分からない。
「一体何が?」
「耳を澄ませば分かる。ソウシ、この丸太は最悪ダメになる。が、お前の家や『俺の』ユーカリを護るためだ」
「ちょ」
既にコアラは何も聞いちゃいねえ。目を閉じ、自分の中に深く深く入った様子だ。
戸惑っていると、モニカに手を引かれる。
彼女は上に顔を向けていた。
空から何者かが迫ってきているってことか。
ブウウン――。
その時、僅かな羽音が俺にも聞こえた。
ボタリ、ボタリ。
地面に落ちてきた水滴がしゅわしゅわと煙をあげる。
「モニカ!」
「きゃ」
モニカに覆いかぶさるようにして地面を転がった。
彼女が先ほどまでいた場所から煙があがっている。
シュン!
今度は水の噴射が空から高速で飛んできた。
躱せず腕に当たるが、結界魔法の加護で事なきを得る。
「一撃で、加護が切れた……」
「この液体、酸か何かなのでしょうか?」
この威力。空から来るモンスターは結構脅威度が高いぞ。
コアラは大丈夫か?
「コアラ流格闘術 二十四の
舞い落ちるユーカリの葉のゆらゆらした動きを模倣したのか、コアラはのらりくらりとした緩慢な動きで、見事に空からの襲撃を躱していく。
「ラインハルトの名において命じる。土の精霊ゲーノモスよ。盟約に従い、我の前に力を示せ」
地面から壁が生えみるみるうちに空まで伸びて行く。
コアラを中心に30メートルくらいの距離を四角く囲み込むように土の壁がそそり立ち、何かが空から一斉に降りてきた!
「アリだあああああ!」
思わず叫んでしまったぞ。蟻と言えば、叫ばなきゃならないという強迫観念があって……。
そうなんだ。降りてきたモンスターは巨大な蟻だったのだ。
鋭い牙と黒光する硬い殻に覆われた、あのよく見る蟻。だけどサイズが、ポニーほどある。
さっきの液体は蟻酸のようなものだろう。
「ソウシ様!」
分かっている。
察したモニカが、目を閉じる俺を抱え上げ少し離れた場所にいるコアラも掴み上げた。
「総士の名において依頼する。水の精霊よ。氷となり我が身を中心に包み込め アイスシールド」
氷の盾が俺たちを包み込むように展開する。そこへ、蟻たちから酸が飛ぶ!
ジュワっと氷が溶けるが、溶けたところから再び氷が再生し酸をふせぎきった。
巨大蟻の数は五匹。
俺たちへ攻撃をしてきた蟻は二匹で、残りの蟻はアリクイもどきを捕食し始めている。
あいつら、アリクイもどきを食べに来たのか。蟻酸で溶かしながら食べているらしく、地面からしゅわしゅわと煙があがっているじゃないか。
なるほど……アリクイもどきが木を食べにくる。そこへ、あの巨大蟻が襲い掛かり蟻酸で木がボロボロになる……ってのもありそうだ。
「コアラ。集中するのはいいが、後先考えろ」
「そこは、お前を信じて、だ。そうしなきゃ、蟻共を閉じ込めることができん」
「あの蟻って、ずっと酸をまき散らしながら動くの?」
「概ねな。あれに溶かされたら何もかも台無しになるだろ。だから、閉じ込めないと」
「うまく行ったから良しか」
「んだ。飛んで逃げることもこれでできねえしな」
と真面目に話をしているが、俺は右腕に挟まれ、コアラは左手で摘ままれている。
モニカのね。
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