行き先

アール

行き先

いつまで経っても見えてくることのないゴールに向かって、その男は歩き続けていた。


目の前に広がるは果てし無く広がる荒野。


だが迷う事はない。


なぜならこの世界の案内人が彼を先導してくれるからだ。


案内人である彼女は背中から白く、美しい花を生やしている。


そう、案内人は天使であり、ここはあの世というわけだ。


死んでしまった瞬間の事を、男は今でも鮮明に覚えている。


自宅であるアパートの一室にてくつろいでいた時、その胸の痛みは突然やってきたのだ。


そして「苦しい!」と思ったが最後、目の前が真っ暗になり、突然この荒野の世界と天使が目の前に現れた。


そして天使は彼にこう言う。


「付いてきなさい。

死んだ魂を案内するのが私どもの役目です」


そしてその言う通りに歩き続ける事、約4ヶ月。


まだまだ終わりは見えてこない。


初めはなかなか状況を飲み込むことが出来なかった男でも旅を続けているうちに、ようやくいくらか事態を飲み込めてきたのだ。


なにせ天使はあれ以来、一言も彼に説明をしてはくれない。


自分から尋ねよう、と考えた事はあったがやめた。


その勇気がなかなか湧き上がってこなかったのだ。


だが天使と歩き続ける事、もう4ヶ月。


男はようやく覚悟を決めたように天使に尋ねた。


「……なぁ、俺はこれからどうなるんだ?」


「どうなる、とは?」


天使が首を傾げる。


「……だから。

俺は一体どっちに行くことになるんだ?

天国か? それとも地獄か?」


「……ああ、そう意味でしたか」


天使は納得したようにうなづいた。


やがてふと、こんな事を言う。


「貴方はどちらに行くと思います?」


まさかそんな質問が天使から来るとは思わなかったのだろう。


男はしばらく腕を組んで考え出した。


そしてしばらくの沈黙の後、やがて男は天使の方に向き直り、答えを述べる。



「……地獄行きだと思うね」


「ほう、なぜそう思います?」







「……俺のイメージだが、天国は現世で徳を積みに積みまくった善良な人間がいくところだ。


なのに俺は、徳というものを積んだ記憶がない。


両親は幼い頃に死に、俺は親孝行というものをした覚えがないし、引き取り先の義父とも喧嘩別れだ」







「なるほど、そうでしたか」


「で? どうなんだ?

俺は天国行きか? それとも地獄行きか?」


男が天使に答えを催促する。


すると天使は笑いながらこう答えた。


「残念ながら、どちらでもありません」


「なんだって?」


男は思いもよらなかった答えにぎょっとする。


天使は話を続けた。


「あなたの刑期はもう満了したのですよ。

魂は洗われ、記憶も消され、別の生命体へ貴方は生まれ変わるのです」


「刑期が満了?

一体どういうわけだ」


「つまり、

貴方が今までいたのは地獄だったのですよ」











一方その頃、現世にある男の死体はアパートの畳の上で異臭を放っていた。


40を過ぎても友人がなく、恋人がなく、家族にもすでに先立たれていた彼。


その死体を見つけてくれるものはこの現世においてどこにもいなかった。


便利すぎる時代だからこそ、孤独は生まれる。


そしてその孤独は、男のような人間にとっては

地獄のように感じるのではないだろうか。


天使の言葉に、男は黙ってうなづいた。


















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