Subsection B07「地上からの襲撃」

 ウェラ・スポンスキィーとの謁見を終えたユリハは、宮殿の入り口へと戻った。

 ユリハの姿を見るなり、ペガサスが顔を上げた。

「ン? 用は終わったのかナ? ……だったら、背中に乗ってヨ。地上まで、送り届けるように言われているからサ」

「ええ。終わったわよ」

 ユリハは頷くと、言われた通りにその背に跨った。

「……ジャア、行くヨ!」

 ユリハが背に乗ったことを確認すると、ペガサスは翼を大きく広げた。勢い良く走り出したペガサスはそのまま雲の端──大地の切れ目へと向かった。

「えっ……ちょっと……!」

 そして、勢いのまま雲の縁からダイブした。

「きゃぁぁあああぁあぁああ!」

 飛んでいると言うより、地上に向かってむしろ真っ逆さまに落ちていた。

 悲鳴を上げるユリハとは対称的に、ペガサスは愉快そうに「ハッハッハ」と笑っている。

「いいから、飛びなさいよ!」

──ユリハは激怒りだった。

「お、オッケー」

 少しおふざけが過ぎたペガサスは、ようやく翼を羽ばたかせて空を飛んだ。気流に乗って、徐々に体勢を立て直していく。

「何をしてくれてんのよ!」

 プゥと頬を膨らませて、ユリハはかなりご立腹だ。

「ゴメン、ゴメン! 面白かったから、ついサァ……」

 悪びれる様子もなく、ペガサスがケラケラと楽しげに笑った。

「まったく、なんなのよ……」

 ペガサスの背にしがみつきながら、ユリハはブツクサと文句を垂れたものである。

──が、その言葉はすぐに爆発音によって掻き消されてしまう。


──ドーン!

「きゃあっ!」

 衝撃に、ユリハは小さく悲鳴を上げた。

 そして、キョロキョロと辺りを見回した。

「えっ、なにごと……?」

──下界に広がる森の中で爆発が起こった。炎と黒煙が上がり、森が焼かれている。

「エェ……何だろうネ」

 ペガサスも、突然の火の手に困惑した様子だ。


──と、森の中で何かが光ったかと思えば、ユリハたちに向かって巨大な火の玉が飛んで来た。

「ンナっ!?」

「きゃあっ!!」

 ペガサスとユリハは一斉に悲鳴を上げた。


 真っ直ぐに飛んできたその火の玉を、ペガサスは滑空して紙一重でそれを躱す。

「なによ、今の……」

「イヤ……って言うかサ……」

 森の中から次々と、ユリハたちに向かって火の玉が放たれた。

 ペガサスは右へ左へ旋回し、それを避けていった。

 ユリハは必死にペガサスの背にしがみつき、振り落とされないように堪えた。

「熱ウッ!」

 何個か目の火の玉が、ペガサスの翼を掠める。

 途端に羽から煙が上がり、ペガサスの翼が炎に包まれいく──。

「あっ、ちょっと……!」

 ユリハは慌てて手を伸ばし、翼から上がる炎の手を消そうとした。

「……ゴメン、最後までお見送りできないヤ……」

「えっ……!?」

 ユリハは何だか嫌な予感がしたものだ。その予感は的中し、すぐに現実のものとなる──。

 ペガサスが身を捩り、背にいるユリハを振り落とそうとしたのである。

「えぇ……。ちょっと!」

 夢中でしがみついていたユリハだが、ペガサスの横腹に火の玉がぶつかり爆発した衝撃で振り落とされてしまう。

 中空に投げ出されたユリハは、真っ逆さまに地上に向かって落ちていった。

──視界の先に、炎に包まれながら落下していくペガサスの姿が見えた。自分が助からないと思い、ユリハを離脱させてくれたのだろう──。

 そのまま、ユリハは森の木々の中に落ちた。

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