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「な……っ、そんなわけはないだろう! わたしは第一王子、王位継承権第一位のはずだ! 適当なことを言うと許さんぞ! それに、貴様ごときに継承権などあるわけがない!」


 マブロゥ様がみついてきますが、はあ……本当に知らないのかしら。普通はありえないんですけど。

 それに、わたくしの父であるアウグスト公爵は王弟です。父はマブロゥ様以外の王子様方の次に継承権があり、わたくしがそれに続きます。

 いくら継承権がないにしても、こんなことも知らないとは、王族としていったいなにをやっていたのでしょう。このような無能、たとえ王位継承権があったとしても、それにふさわしくないといずれ陛下に判断されたに違いありません。


「あなたのお母上の妾妃しょうひ様は、平民出身でしたわよね。この国の法律では、平民が母に当たる王子および王女は王位継承権を持てません」

「貴様、母上を愚弄ぐろうするか! 愛し合い、国民から祝われて結ばれた父上と母上の息子であるわたしに、王位継承権がないものか!」


 この国の法律だと言っているのに、なぜそうなるのでしょうね。

 ……第一、国王陛下と愛し合っているのは王妃様で、幼い時から仲睦まじかったとお聞きしています。

 それに無理やり割って入ったのは、両陛下と同じ学園に通っていた妾妃様ですわよ? 陛下もあれはだまし討ちに近かったと苦い顔で語っておられました。

 妾妃様になにを吹きこまれたのか知りませんが、子がマブロゥ様だけの妾妃様と、立て続けに三人の王子をお産みになった王妃様とではどちらに陛下の愛があるかなんて、傍目はためにも丸分かりですわよね。


「愚弄もなにも、わたくしは事実を申しただけのことです。それを言うなら、わたくしに冤罪えんざいをかけ、恥をかかせた上、国外追放などというふざけたことをのたまうあなた方のほうがよほどひどいですわ」


 すると、マブロゥ様が真っ赤になって怒鳴りました。


「き、貴様、この期に及んで! 証拠は挙がっているのだぞ!」

「まあ、いったいどのような証拠なのかしら? 冤罪を晴らすため、この際ですからはっきりしていただこうかしら」

「いいだろう! まず貴様はコリンヌの陰口を言った!」

「……はあ?」


 思わずあきれた声が出てしまいましたが、しかたありませんよね? この馬鹿はなにをとち狂っているんでしょうか。

 会場内でも「ええ……」「そんなことで?」と同様の声が上がっています。


「貴様の愚かさを示してやったというのに、なんだ、その態度は!」

「……わたくし、一度たりともコリンヌ嬢の陰口をきいたことなどありませんわ。あなたとの婚約を解消できるよい機会ですのに、そのような無駄なことはいたしません」

「なっ、なんだと!」

「ちょっと、うそつくんじゃないわよ! このメロン女が!」


 ……下品ですわね。

 コリンヌ嬢のその一言で、わたくしの大きすぎる胸に会場中の注目が集まってしまいました。


「第一、他人ひとの婚約者と不貞を働いている方の陰口を言ってなにが悪いんです? 言われるほうが、どう考えても悪いですよね?」

「貴様、開き直るか!」

「そうよ、罪を認めなさいよ!」

「──くだらない。陰口くらいで公の場で侮辱ですか。そんなこと、貴族のみならず平民にだってあるでしょうに、いちいち気にしてたらとても生きていけませんわよ。公爵令嬢であるわたくしがそのくらいで国外追放なら、衆人環視の場でこうして侮辱しているコリンヌ嬢は、いったいどんな罪に問われるのでしょうね?」

「なんですって!」

「貴様、言うに事欠ことかいて! 近衛どもよ、この愚か者を切り捨てよ!」


 激昂げきこうしたマブロゥ様がついていた近衛騎士に命じましたが、彼らは動きません。……まあ、当然ですね。


「どうした! わたしの命令がきけないのか! ならば近衛を辞めさせるぞ!」

「王位継承権を持つセレーネ様を害することなどできません。陛下より、セレーネ様を優先せよとの勅命を奉じております」

「な、なっ、きっ、貴様らーっ!」


 マブロゥ様が顔をゆがめてみっともなくがなりたてましたが、それを遮る声が会場に響き渡りました。


「──なにをやっている。この愚か者めが」

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