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「ち、父上……!」
「マブロゥ、おまえはわたしが定めた婚約者であるセレーネにくだらぬ言いがかりをつけた上、国外追放どころか殺害せんとしたな。もはや言い逃れはできぬと覚悟せよ」
この上ない怒りの表情で、国王陛下がマブロゥ様を
その後ろには王妃様と第二王子であるレアンドレ様が続きました。お二人とも心配そうにわたくしを見つめてきます。
「い、いや、し、しかし、セレーネはコリンヌをいじめたのです! それを断罪するのは当たり前で……」
「くだらぬ。たかが陰口くらいで、おまえは公爵令嬢を死罪にするというのか? それならば、わたしの
「な……っ」
すげなく返す陛下に、マブロゥ様は言葉をなくしました。しかし、コリンヌ嬢は懲りることを知りません。
「いいえ、王様! わたしはセレーネに学園の階段から突き落とされました!」
「ほう、いつだ」
すっ、と陛下が目をすがめます。獲物を仕留めるような表情です。
「えっと、三日前です! もう死ぬかと思いました!」
コリンヌ嬢、そのわりにぴんぴんしていますね。……それにしても、よりによって三日前ですか。
「まあ、その日ならば、セレーネ嬢はわたくしの茶会に招かれてますわ。その日はセレーネ嬢は学園に行っていないはずですよ」
「えっ、嘘!」
「王妃、いくらわたしの母が父上の愛を独り占めしているからといって嘘はいけません。わたしの邪魔をするまねは許しませんよ」
はあーっ!? よりにもよって、王妃様にまで突っかかるんですか? それに敬称もつけていないし、王族の末端とはいえ、不敬にもほどがあります。
まさかここまで
見れば、会場中のギャラリーがあきれ果てた目でマブロゥ様を眺めています。そして、表情を消し去った陛下が怖いです。
「──その茶会にはわたしも同席していたが? おまえはわたしの最愛の妃のレティシアまで侮辱するのか?」
「えっ!」
まずいと顔に書いてコリンヌ嬢が叫びました。けれど、マブロゥ様は別のことに衝撃を受けたようです。
「なっ、なっ、父上は母上を愛しているのでは──」
「妾妃を愛してなどいない。わたしが愛するのは、今も昔もレティシアだけだ」
「陛下……」
なにやら両陛下がいいムードになってますが、そんな場合ではないですよ。
「そっ、それでは愛しているふりをしていたというのですか! 母上が気の毒すぎます!」
「……そもそもそんなふりもしていない。第一、見目のよい複数の男に言い寄るような女をどのように愛せと? ……ああ、妾妃はそこの無礼な男爵令嬢にそっくりだな」
「なっ、コリンヌが複数の男に言い寄ったと申されるのですか。母上のことといい、いくら父上でも──」
気色ばむマブロゥ様に、陛下が皮肉な笑みを浮かべました。
実は、不貞を理由にわたくしはマブロゥ様との婚約の解消を陛下に願ったのですが、その時にマブロゥ様だけでなくコリンヌ嬢の調査もされていたのです。
コリンヌ嬢は複数の高位貴族の男性に粉をかけたことをマブロゥ様にはうまくごまかしたようですが、王宮の調査官は甘くありません。知らぬはマブロゥ様ばかりです。
「わたしでも、なんだ? まさか許さぬとでも言うのか?」
「そ、そうです!」
……本当に底なしの阿呆です。
おそらく子だから許されると思っているのでしょうが、国王陛下を軽く見るにもほどがあります。
「そうか、残念だ。──第一王子マブロゥ、王位継承権を持たぬにもかかわらず、王太子と虚偽の身分を
静まりかえったパーティ会場に、陛下の声が響き渡りました。
「なっ、なっなっ! 王子であるわたしが罪人だと!?」
「悪役令嬢のセレーネを断罪するはずだったのに、なんでモブのあんたがしゃしゃり出てくんのよ! 助けて、レアンドレ様!」
えっ、モブってもしかして陛下のことを言ってます? そうだとしたら不敬も不敬、彼女の家にまで累が及ぶんじゃないかしら。
そして、よい仲のマブロゥ様の前で、王妃様の息子の第二王子様に助けを求めるとはあきれ果てます。悪役うんぬんは、コリンヌ嬢がそのものなのでどうでもいいですが。
そうして、わめくお花畑二人が近衛騎士たちに引き立てられていきましたが、わたくしはまだまだ言い足りませんよ? あふれんばかりのこの胸の内、いったいどうすればいいのでしょうか。
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